楽園

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2023年ベルギー、ゼノ・グラトン監督作品。主人公を演じるハリル・ガルビアがオゾンの『苦い涙』と全く違う役であるところが面白い。役者はどんな役でもやれるという意味ではなく、多く…

のら犬

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2022年フランス、ジーン・バプティスト・ドゥランド監督作品。思い通りになるのは飼い犬のマラバールだけ。でも思い通りになる存在なんて必要だろうか、なぜ必要なのか省みなきゃならな…

白日青春 生きてこそ

「難民は盗んだ車を無免許で運転していた」から父さんの過失は問われないと、アンソニー・ウォン演じるチャン・バクヤッ(「白日」)の息子ホン(エンディ・チョウ)は言う。そうするしかないのにそう言われてしまうんだと悲しくなるが、警察官の彼は自分の…

時は止まりぬ

「蘇ったフィルムたち チネマ・リトロバート映画祭」にて観賞、エルマンノ・オルミ初の長編劇映画(1958年イタリア制作)。水力発電のためのダム建設現場の冬季監視員として雪深い山小屋で過ごす男二人の数日間…特別な場所での普通の時間が描かれる。年長の…

北極星

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2022年フランス、アイナラ・ベラ監督作品。いったん海に出れば2週間は携帯電話も繋がらないベテラン船長のアヤットは、妹レイラと自分を「私達」と言う。妹の出産に際し、私達は祖母、母…

コット、はじまりの夏

冒頭、駆けて学校の塀を飛び越えるコット(キャサリン・クリンチ)の小さな後ろ姿があまりに鮮烈。私達はあの後を追うことになる。映画はオープニングからずっと彼女と彼女に向かい合う者をど真ん中に据え続ける。画面中央のコットにアイリン(キャリー・ク…

ふたりだけのロデオ

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2022年カナダ、ジョエル・デジャルダン=パケット監督作品。冒頭トラックレース(ロデオ)に負けての「世界で一番強いのは誰だ?」とは月並みな発破、「相棒」との合言葉に聞こえるが、…

スペアキー

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2021年フランス、ジャンヌ・アスラン、ポール・サンティラン監督作品。演技であっても心配になるほど子どもが折檻されているオープニング。フィフィ(原題『Fifi』、セレスト・ブリュン…

いつか見た青い空/セカンドインパクト

特集上映「サム・フリークス Vol.26」にてアメリカ映画二本立てを観賞。▼用を足すのに他人の手を借りなければならないからと避難所で水分を控える高齢者の話を聞くけれど、『いつか見た青い空』(1965年アメリカ、ガイ・グリーン監督)で大好きなパイナップ…

僕らの世界が交わるまで

今終わる!と思ったところでやはり終わったラストカットは母エヴリン(ジュリアン・ムーア)が息子ジギー(フィン・ウルフハード)の何年前だろうか、初めてのVlogを初めて見終わって後にしたオフィス。この映画の面白いのはまず、家族である二人が(邦題を…

カラオケ行こ!

例えば少年・岡聡実の声変わりを「ついに僕もアレを迎えてしまいました」と繊細に描くところに無知ながらBLらしさ(私にとってこれはBL)を感じていたのが、映画ではこの要素の一番美味しいところを後輩の和田が持って行く。自分も声変わりをすると知らない…

ミツバチと私

洗濯物を干しながら母アナ(パトリシア・ロペス・アルナイス)とその母リタ(イツィアル・ラスカノ)が話す場面に、子どものころ一番嫌だったのは自分の見えないところで家族に自分の話をされることだったと思い出した。多くの面でマジョリティであり、付け…

コンクリート・ユートピア

(以下「ネタバレ」しています)原作漫画と異なるタイトルは、参考にしたアパート研究書からオム・テファ監督が取ったんだそう。近年の韓国ドラマ、例えば『賢い医師生活』(S1、2020)にはアパートのチョンセ(保証金)詐欺、『悪霊狩猟団 カウンターズ』(…

ブルーバック あの海を見ていた

予告からは内容が掴めなかったけれど、オーストラリアの映画を見ようと出向いてみたら面白かった。主人公が「ブルーバック」(大きな魚、ウエスタン・ブルーグローバーに彼女がつけた名前)を他の人間から守る場面は無声映画のようで、力強いスリルとエモー…

マイ・ハート・パピー

主人公ミンス(ユ・ヨンソク)は犬のルーニーと、従兄弟のジングク(チャ・テヒョン)と、恋人ソンギョン(チョン・インソン)と、手と手で愛情を確認し合う…ことから彼にとって、この映画にとって、犬とは自分で選んだ大切な家族なのだと分かる。冒頭のミン…

今年を振り返って

▽劇場で見た一般公開作の中からお気に入り10作と思ったけれど、今年はこれというものが少なく10は無理なので、順不同でベスト3。▼幻滅(感想)…文学を映画に生まれ変わらせる時のストレートかつ賢いやり方。ドランの初登場シーンの衝撃。▼探偵マーロウ(感想…

ショーイング・アップ

「A24の知られざる映画たち」にて観賞。来月配信予定とのことで家で見るつもりだったけれど、上映中の『ファースト・カウ』(2019)が面白かったので最新作のこちらも劇場で見てみた。「食べられたくなかったら出しとくなよ」と言ったのはジョン・マガロ演じ…

ハンガー・ゲーム0

Pure as the driven snowをコリオレーナス・スノー(トム・ブライス)の名に掛けて「誰もが清らかに生まれてくるが、そのまま生きていくことはできない」とルーシー・グレイ(レイチェル・ゼグラー)は歌うが、この前日譚は「あの人はなぜあんなことをするの…

ファースト・カウ

思いがけないオープニングの一幕、あれを見つけた彼女(アリア・ショウカット)はなぜつい、一心不乱に土を掘るのだろう、私でもそうするだろう、なぜそうするのだろうと考えた。命あるいはその痕跡が近くにあれば手を伸ばそうとするものなのかもしれない。…

ティル

オープニング、母と息子二人だけの場には幸せが満ちているが旅行の買い物に車を降りる時、外の世界に出る時が近づくと母親メイミー・ティル(ダニエル・デッドワイラー)の顔に不安の影がさす。映画の終わりのスピーチで彼女は「1ヶ月前は南部の黒人の話は他…

枯れ葉

(フィンランド映画祭の先行上映で見た時の感想はこちら)オープニングクレジットはアルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネン、アキ・カウリスマキの順。そんなことと思われるかもしれないけれど女としては気になるもので、アキ映画で女性の名前が最初に出るの…

最悪な子どもたち

オープニングは映画出演のオーディション。カメラのこちらの後にベルギー人と分かる年配の男性の声の「映画が複雑だから分かる人じゃないと」に内心わはは!と笑ってしまった(映画の方が実際の人間より「複雑」だと思ってるんだ!)。コメディにできるのに…

映画 窓ぎわのトットちゃん

『窓ぎわのトットちゃん』は元がそうだからなんだろうけど随筆に近く、執筆時(1981年)の黒柳徹子の思いや説明がそれぞれのエピソードに付されている。それをしない映画では作中のトットちゃん(大野りりあな)がその役割を少々担っており、実際には自分が…

Winter boy

運転する父親(クリストフ・オノレ監督演)との会話の最中「今より幸せになってほしい」と願い、帰宅して抱き合った母親(ジュリエット・ビノシュ)の耳元で「まだ若いんだからこれから」とささやく。17歳のリュカ(ポール・キルシェ)の、これは溢れんばか…

MY (K)NIGHT マイ・ナイト

上映前の他の日本映画の予告で「ぼくには夢を見る資格なんてないから…」「ただの女子高生の私を…」と続けて聞いて、そうじゃないと訴えるための布石であろうと全くそういうのが嫌なんだよと思っていたら、この映画にも「ただのおばさんだから」「おれには資…

ショータイム!

ふらりと入ったキャバレーでの第一声「ここは誰にでも安全な場所、お金や仕事のことを忘れてお楽しみください」に次ぐショーに、愛する人に去られ祖父の代からの農場を差し押さえられようとしているダヴィッド(アルバン・イワノフ)は涙を流し自分もそのよ…

サイレント・ツインズ

ポーランド映画祭にて観賞、2022年ポーランド、イギリス、アメリカ制作、アグニェシュカ・スモチンスカ監督作品。出演はレティーシャ・ライト…に始まるオープニングは私には、実在の人物を元にした創作物において作り手と受け手とが共犯関係を紡ぐことの(ど…

バルコニー映画

ポーランド映画祭にて観賞、2021年パベェウ・ウォジンスキ監督作品。コロナ禍の2年あまりワルシャワ自宅のバルコニーから人々を撮影した映画というので大好きな『ダゲール街の人々』(アニエス・ヴァルダ1975)を連想していたんだけど、全く違っていた。いや…

クロックウォッチャーズ/ザ・デッド・ガール

特集上映「サム・フリークス Vol.25」にてトニ・コレット二本立てを観賞。 ▼『クロックウォッチャーズ』(1997年イギリス・アメリカ、ジル・スプレカー監督)はトニ・コレットが私達を見るラストカットが忘れ難い、今見るのに、いやいつ見るのにもぴったりな…

4人の小さな大人たち

フィンランド映画祭にて観賞、2023年セルマ・ヴィルフネン脚本監督作品(同映画祭で見た同監督の『リトル・ウィング』(2016)感想)。「私たち平等党が最も重きを置くのは愛です」とユーリア(アルマ・ポウスティ)は党首選でアピールするが、この映画のテ…