映画はムンバイの道々で裸足で遊んだり踊ったりする子らに始まる。そのうちそこから生まれたマニーシュ・チャウハンが登場し思いを語りタイトルが出る。彼がダンスを始めた切っ掛けだという映画のワンシーンはインドの若者達が普段着(に見える服装)で男女混じって踊るもので、日本の私が映画館で見たことのない類のものだな、これが「ドキュメンタリー」の面白さだなと思う。ダンスを嗜んでいる人もそうでない人もそれぞれがそこここで私服で踊るエンドクレジットにも心が躍った。
マニーシュが本人役を演じた劇映画『バレエ 未来への扉』(2020年インド、スーニー・ターラープルワーラー監督)には富裕層と貧困層、親と子、バレエを知る界隈と知らない界隈などの間にある対立が分かりやすく描かれており、脚色によりインドの真実を訴えていたとも言える。本作はもっと個人に寄っており生々しいが、宗教や人種の壁をなくそうというメッセージは通じている。
親が子を育て上げた後は子が親の面倒を見るとされる中、マニーシュが両親にようやく渡せたお金は『バレエ』の出演料である。映画以外にダンスで稼ぐことは出来ないというインドにおいて、後ろ盾になれないから子を手放しに応援できない家に生まれた彼はプロになるため世界を転々とする。どの専門家も彼を誉めるのになぜ雇用に繋がらないのか次第に不思議でしょうがなくなってくる。断られた帰りの「雇う気がないのになぜ会うのかな」にイェフダ先生は「厳しい道なんだ」としか答えない。
アメリカのダンス界で「用無し」となったイスラエル出身のイェフダ先生の「インドは嫌いだが75歳の教師を雇ってくれるんだから寛容だ」に対し劇映画でジュリアン・サンズが演じた彼は「『白人』は客寄せになる」と言われていたが、後者が演者に沿った脚色だとしても私にはままある表裏一体に思われた。インドはunsafeだ、道も渡れない、子ども連れのお婆さんを探して一緒に渡ると話していた先生がマニーシュに手を引かれて道を渡るようになり「命ある限り応援したい」との気持ちに至る。彼をダンサーとして送り出した後に地域のコミュニティに加わったとエンドクレジットにあったのには熱いものを覚えた。