詩人の花嫁


EUフィルムデーズにて観賞。2023年ベルギー・フランス、ヨランド・モロー監督作品。大変彼女らしい内容で歌も絶品だった。

菜の花が満開のムーズ川のほとり。鴨について水に落ちそうなよたよた歩きのミレーユ(ヨランド・モロー)が荒れ放題の生家に帰って来る(ご丁寧に自室は火事の名残りがそのまま)。神父に空虚さを訴えると「心を開く…他人を受け入れる」よう助言され、彼女自身=大きな家に下宿人を置くことにする。料理などはせず、初日の朝食は職場であるカフェテリアからぱくってきたプリンが一人につき二つ。

贋作を描く学生の「ピカソ」、タンバリンしか出来ないトルコ人の「エルヴィス」、夜は女性装をするベルナルド、やって来たのはいずれも「にせもの」の男ばかり(この、ピカソやエルヴィスの名前を全く屈託なく出してくるところや異性装の描写などにはさすがに古めかしいものを感じる)。そして最後にミレーユにとって最大の「にせもの」男、詩人を偽り彼女の人生を一変させたフェルナンド・マルティネス(セルジ・ロペス)が現れる。ミレーユ=家は確かに当初は空虚だが、大きく、通りがいい。そして歌が歌える。更に「にせもの」男達との暮らしでほぐれていく。「たまたまいる」配管工のフェルナンドの手で第一次大戦時からの配管の詰まりも直る。

妹アニー(アンヌ・ブノワ)に「闇で?」と言われるようにミレーユの下宿は無許可である。しかし家に来た人を住まわせて少額を受け取るのと家族とは何が違うのか?エルヴィスが政治難民だと知ったミレーユはピカソが描いた彼のちんこの大きさに目を留め正装で一人役所に出向く。市長の女性の「偽装結婚と怪しい結婚の違いをご存知?双方が納得していれば後者」に「なぜ来たのか分からなくて…」と返し、国に居られないからだと教えられる。「偽る」には理由がある、いやお互いが受け入れていれば本物だ(ミレーユは「詩人の花嫁」だ)という話なわけだけど、こんな素朴にも程がある疑問を呈し答えを素直に受け入れる役なんてヨランド・モローでもないと演じられまいと思った。