映画

ピータールー マンチェスターの悲劇

冒頭に置かれたウェリントン公の補佐官ビング将軍と内務大臣の「軍人として育てられたので政治に関心はありません」「いいことだ、私もそうだ」とのやりとりで、(国の軍隊もおそらく義勇軍も)軍とはどのようなものかがまず語られる。トップは自身の愉しみ…

あなたの名前を呼べたなら

「裁断さえしっかりやれば、縫うのは簡単」オープニング、ラトナ(ティロタマ・ショーム)は妹に勉強するよう声を掛け、スクーター、バン、バスと乗り継いで村からムンバイへと向かう。バスの中で、すなわち村から離れたところで腕輪をはめ(その意味すると…

風をつかまえた少年

「school, library, Using Energy, I tried and I made it」。TED Globalでのウィリアム本人のスピーチのうち、本作が特に重視する言葉はこれらである(とエンドクレジットにて分かる)。作中唯一私が涙をこぼしてしまったのがその結実する場面であることか…

よこがお

まずは「(役名)こわい!」なんて馬鹿みたいな感想だって言い得る映画である。ひとえに色んな女が出ているから。女が「女」という位置付けだと、「女ってこわい」なんて違う意味で馬鹿な物言いが世に溢れてしまうものね。 とはいえ私は本作のような、物事と…

北の果ての小さな村で

教員とは大体が政府の、すなわち何らかの政策の下で働くものだが、この映画の、グリーンランドの大地や海を捉えた映像からは、しかしそうであっても十分、私達は自由と強さを持って仕事に向かえるのだという(作り手はそこにはそうは込めていないであろう)…

存在のない子供たち

「スウェーデンへ行けば安心して暮らせる 私の部屋に入れるのは私が許可した人だけ 死ぬ時は自然な理由で死ぬ」冒頭、ゼイン(ゼイン・アル・ラフィーア/彼と監督ナディーン・ラバキーのみ本名と役名が同じ)含む少年達が戦争ごっこ、というよりも銃を模し…

RRTで見たもの

第28回レインボー・リール東京にて観賞した三本についてのメモ。 ▼シンシア・ニクソンがエミリー・ディキンスンを演じた「静かなる情熱」(2017年イギリス)もとても面白かったのでぜひ見たいと思っていた「エミリーの愛の詩」(2018年アメリカ/マデリーン…

田園の守り人たち

これは面白かった、次から次へと違った様相が現れる稀有な映画。馬車を降りたフランシーヌ(イリス・ブリー)が閉じられた扉を自らの手で開いてドアを叩く時(ナタリー・バイ演じるオルタンスがそこには居ないのが示唆的)、ルグランの曲が不意に鳴り響いて…

サマーフィーリング

「アマンダと僕」(2018/感想)のミカエル・アース監督の2015年作。「アマンダ」でも印象的だった公園と開かれた窓に映画が始まるのに、作家とはモチーフを繰り返すものだと思う。しかし同じものが違うことを語るために用いられている。冒頭、身支度を済ま…

まどろみのニコール/ステーション・エージェント

特集上映「サム・フリークス Vol.5」にて二作を観賞。今回も素晴らしいイベントだった。 ▼「まどろみのニコール」(2014年/ステファヌ・ラフルール監督)で描かれるのは、両親不在の家で夏を過ごすニコールの不眠症の日々。「どこへでも行ける、何だってで…

Girl ガール

映画の終わりの病室の場面にふと、自分の体をどうにかしようと必死に手を伸ばしても届かないことがある、大なり小なり誰しも…とは間違ってはいないが決して言ってはいけないのだと思った。だってこれは、他人、特に大人の言うことは優しく正しいかもしれない…

ニューヨーク 最高の訳あり物件

予告編に遭遇するたび「『ハンナ・アーレント』のマルガレーテ・フォン・トロッタによる…」にそういやそうだったと思っていたのが、見てみたらやはり(邦題から連想させる)ダイアン・キートンが出てくるような作品では全然なかった。今回は「母」役のカーチ…

COLD WAR あの歌、2つの心

映画は田舎に始まり田舎に終わる。振り返ればオープニングは土着の文化がスーツの者達によって保護された瞬間のようにも思われる。ポーランドの民俗音楽を残そう、広く伝えようというこの舞踏団プロジェクトにおいて制作側の思惑も勿論一枚岩ではなく、仲間…

パピヨン

パピヨンは自分の血の手形とかサインとか、独房に残さないだろ!と思いながら見ていたら、最後に示される写真の数々から実際そうしていたらしきことが知れ、かつての映画がいかにダルトン・トランボによって作られたものだったか分かった。私はそれが好きだ…

アマンダと僕

最も印象的だったのは、人々の家の中から町が、町から家の中が見え、それらが常にシームレスに繋がっていること。人は家でなくコミュニティに暮らしているのだ、そしてエンドクレジットからも分かるように、それは攻撃されても…一部が殺されても、またレナ(…

インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました

映画は真っ暗なところ(それは「私」とも取れる)へピート(マーク・ウォルバーグ)がドアを開け足を踏み入れ世界が明るくなるのに始まる。ポール・マッカートニーが「お願いだからドアを開けて、みんなを入れて」と歌うウイングスの「Let 'em In」が程無く…

さよなら、退屈なレオニー

冒頭の、代父母をも呼ばれての卒業祝いシーンにふと、子どもの頃の「周囲の大人達が私の話ばかりする」時の苛立ちを思い出した(勿論それは「贅沢」とも言えると今は分かっているのだけれども)。レストランの椅子に沈み込んで小さくなったレオニー(カレル…

小さな同志

EUフィルムデーズ2019にて観賞。2018年エストニア、モーニカ・シーメッツ監督作品。映画の最後に「本作はレーロの自伝に基づいている」「スターリン時代に苦しんだ全ての家族に捧げる」との文章と親子三人の写真が出る。少女の母はKGBと教育庁下の学校におい…

スノー・ロワイヤル

これは同監督の元作品「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」の圧勝でしょう。つまびかれる弦楽器の旋律、ステラン・スカルスガルドのスピーチ帰りの何だかんだ言ってのにんまり顔、暴力行為の後の息のあがった姿、「伯爵」の髪に調度、ブルーノ・ガンツの…

クイーン・オブ・アイルランド

EUフィルムデーズ2019にて観賞。2015年アイルランド、コナー・ホーガン監督作品。同性婚を合法とするか否かを問う国民投票で勝利を収めた姿が始めとクライマックスに置かれていることで、これが平等を手にする(文字通り「手にする」)ために戦わなければな…

氷上の王、ジョン・カリー

最高のドキュメンタリーだった。案外とない、美とは素晴らしいと心底実感できる映画。クリスマスにもらった5ポンドで買えるだけのレコードを手に喜び勇んで帰るも父親に「もっと実のあることに使え」と言われた少年が、人生の終盤に「あなたの功績は」と問わ…

ウェスタン

EUフィルムデーズ2019にて観賞。2017年ドイツ、ブルガリア、オーストリア/ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督作品。オープニング、緑のプラスチックバッグに仕事仲間の分の食べ物(と字幕にはあったがお弁当かお惣菜)をぶらさげて戻ってくるマインハルド(マ…

パリ、嘘つきな恋

この映画が面白いのは人々のやりとりに忌憚がないことによって成立しているところ。お国柄などと言うものではなく監督・脚本・主演のフランク・デュボスクのキャラクターだろう。これは自分の想像が及ばない領域において各人がいわば発揮する性質だから、「…

コレット

最後に「さすらいの女」の「今は幸せを求めている」という一文がコレット(キーラ・ナイトレイ)の声で語られる。かつてミッシー(デニース・ゴフ)に「幸せな人なんている?」と返した彼女はもういない。コレットは自分で自分を真に舞台に立たせ、その名を…

僕たちは希望という名の列車に乗った

「人は皆、何らかの体制に従属している 自分で物を考えて決める時だけ、そこから自由になる 君達はそれをしたから、国家の敵だ」ラース・クラウメ(監督・脚本)の前作「アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男」(2015)は記録映像中のフリッツ・バウ…

RBG 最強の85歳

「私達は入念に準備して懸命に戦った」「彼女から返ってきた原稿には多くの細かい修正がなされていた」とはルース・ベイダー・ギンズバーグと共に働いた女性達の言だが(友人によると「彼女ほど自己主張をしない人はいない」そうだが、その成果により周囲の…

スケート・キッチン

実在する女子だけのスケートクルー「スケート・キッチン」が題材と聞きドキュメンタリーだと思い込んでいたので全く違う内容にびっくりしつつ、いかにも劇映画らしい、つまり見慣れたストーリーの根底に人生は常にクライマックスなんだという感じが流れてい…

ダンプリン

Netflixにて観賞。私が原作小説「恋するぷにちゃん」を読んだ時に泣いた箇所が冒頭の主人公ウィル(ダニエル・マクドナルド)のナレーションに持ってこられておりびっくりした。「ルーシーおばさんは自分抜きでどう生きるかを教えてくれた」。映画は真っ赤な…

ザ・フォーリナー 復讐者

「タトゥーの入った背中」が男に過去があることを示す映画を近年重ねて見た。本作の冒頭女と裸で目覚めるのに登場するリアム(ピアース・ブロスナン)の腕にもタトゥーがあるが、彼は背中は見せない。タトゥーは今は北アイルランド副首相である彼がかつてIRA…

パパは奮闘中!

映画は子ども二人が寝ている暗いうちから車で出勤するオリヴィエ(ロマン・デュリス)と、その子らと楽しそうに、傍からは円満に見える時間を過ごす妻、その間に彼が職場で人事担当者に同僚の解雇を取り消すよう掛け合っているのに始まる。失業率の高い現在…