映画

美しく、黙りなさい

「フランス映画と女たち PART3」で観賞、1981年デルフィーヌ・セリッグ監督作品。ハリウッド1975年、パリ1976年と最後に出る…ということは去年見て感じ入ったジャンヌ・モローの監督作『リュミエール』と同じ頃に作られている。1981年なら前日見たアニエス・…

わがままなヴァカンス

「フランス映画と女たち PART3」で観賞、2019年レベッカ・ズロトヴスキ監督作品。休暇を前に16歳になったジーンズ姿のネイマ(ミナ・ファリド)は同級生から歌に菓子パン、皆で集めたらしき現金をもらう。親友の、「女優になりたい」「うちらは姉妹みたい」…

壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記

2024年7月に取材開始。私自身が出掛けているかのようなiPhoneによる映像の臨場感がすごいと思っていたら、タクシーの運転手に、ヘブロンの旧市街の商店主に、壁が出来てからの変化などを聞く際の移動の映像に酔ってしまい、第一章「壁の外側」の間は殆ど目を…

愛はステロイド

『ミッション : インポッシブル ファイナル・レコニング』では登場するや観客(私)を魅了したケイティ・オブライアンだけど、こちらでは彼女演じるジャッキーはルー(クリステン・スチュワート)を一目で虜にする。「筋金入りのレズビアン」と言われるルー…

大統領暗殺裁判 16日間の真実

チョン・インフ(チョ・ジョンソク)のパク・テジュ(イ・ソンギュン)への「どうせ歴史に名前が残るのはキム部長だけ(なんだから方便で自分の命を守れ)」と『ハルビン』(2024)でのキム・サンヒョン(チョン・ウジン)のウ・ドクスン(パク・ジョンミン…

スムース・トーク

「インディペンデント・ガールズの肖像」にて観賞、1985年イギリス・アメリカ、ジョイス・チョプラ監督作品。ジョイス・キャロル・オーツがボブ・ディランのIt's All Over Now, Baby Blueに触発されて書いたという『どこへ行くの、どこへ行ってたの?』を原…

マルティネス

職場の同僚が柑橘類を剥いてほとばしる果汁とおそらく匂い、人事の女性の身内の不幸による欠勤、全てが当初のマルティネス(フランシスコ・レジェス)には不快なノイズである。しかしそれらこそが生のしるしであり、大きなテレビの音は隣人が死ぬ間際に放っ…

国宝

色々なことが次々と流れていくなか入り込める瞬間は皆無だったけれど、田中泯を見るだけで映画料金の元は取れた。彼演じる万菊の俊介(横浜流星)への「若い娘になりきってたら…」には、歌舞伎ってやっぱり薄気味悪いなと私に思わせない説得力がある(対して…

臆病者

「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」にてデジタルリマスター版を観賞、1965年作品。茶園の経営者ビマールによれば「信じられないだろうが年に一人は遭遇する」困ったベンガル人の一人だが他にない一人であるアミ(ショウミットロ・チャタルジ)の長…

あの夏、僕たちが好きだったソナへ

リメイク元のギデンズ・コー『あの頃、君を追いかけた』(2011年台湾)の細部は覚えていないけれど、主人公の男女が結婚するわけではない結婚式、の内実があんなふうである上に男同士のキスを作中ずっとあんなふうに扱う時点で本作は、いやいや今年は『ラブ…

The Summer あの夏

2000年頃の忠清道のとある高校。「アクシデントで眼鏡を壊される」オープニングから早々に、「女」が「女」を好きになること、そういう「レズビアン」は差別されること、同じレズビアン同士の間にも(差別されるがゆえに)齟齬が生じることが描かれる。原作…

ビッグ・シティ

「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」にてデジタルリマスター版を観賞、1963年作品。アロティ(マドビ・ムカージー)の義父の「知性の種を蒔いたのは教師である自分なのに彼らは出世し私には職もない」との嘆きには、1920年代が舞台の『音楽サロン』…

アイム・スティル・ヒア

映画はレブロンの海に一人漂うエウニセ(フェルナンダ・トーレス)が上空の軍のヘリコプターの音に緊張したあと浜辺の子ども達の声にそれを緩めるのに始まるが(全編通じてフェルナンダ・トーレスのこうした表情の変化が雄弁で見事)、後に彼女達、いや人々…

基礎訓練/パナマ運河地帯

早稲田松竹のフレデリック・ワイズマン特集にて、見逃していた二作を観賞。 志願兵が「犯罪者」であるかのように体のサイズを測られ髪を刈られ指紋を取られるのに始まる『基礎訓練』(1971)で、何度か出てくる懲罰房との言葉に既に懲罰を受けているようなも…

よみがえる声

『オマージュ』(2021年韓国)を一瞬思い出す、映像機器を前にした二世代の女の横並びのショットでの「木鉢寮って何ですか」(朴麻衣監督)「だから…!」(朴壽南監督)のやりとりに、当たり前だと言われそうだけど、母と娘は違う人間なんだと思う。みな違う…

入国審査

近くの読書中の男性は「三章ぶん」、エレナ(ブルーナ・クッシ)が解釈するに三時間は待たされている尋問のための待合室…と呼ぶのもしっくりこないそこは水も食べ物もない非人間的な場所だ。二人のうち彼女だけが一旦密室から解放される時の女性審査官(ロー…

KNEECAP ニーキャップ

予告編の冒頭の「ベルファストの映画の始まりはどれも…」(舞台自体は別の土地だけど『プロフェッショナル(2024/原題In the Land of Saints and Sinners)』なんてまさにそうだったよね、いい映画だった)は映画そのもののオープニングだったのか、からの…

私たちが光と想うすべて

「ここでの暮らしには暗黙のルールがある、怒りを感じても表に出さないこと」「幻想を持たなければやっていけない」道路、市場、そして人でごった返す駅のホームや列車の映像にかぶる、ラナ・ゴゴベリゼの『インタビュアー』(1978年ジョージア)も何となく…

盲山

限定上映にて観賞。2007年中国制作、リー・ヤン脚本監督。主人公・白雪梅を連れ戻しに来た公安の「あんたたちも人の親だろう、娘が売られたらどう思う」「娘さんの気持ちを考えたことはあるのか」には、よく言われる「人権は思いやりではない」のだからそん…

ナタリーの朝/ロング・ウォーク・ホーム

特集上映サム・フリークス Vol.31にて「女性の自立を描いた二本立て」を観賞。今回も、というかいつもタイムリーだ。 ▼『ナタリーの朝』(1976年アメリカ、スタンリー・シャピロ原作、A・マーティン・ツウェイバック脚本、フレッド・コー監督)はパティ・デ…

顔を捨てた男

主治医のジャジャーン!(×2回)じゃないけれど、この映画が描いているのは「他人との距離が異常に近いが相手のことはどうでもいい」世界である。それを体現しているのが隣人で自称劇作家のイングリッド(レナーテ・レインスベ)で、部屋の奥までずかずか入…

カシミールのふたり ファヒームとカルン

レインボー・リール東京にて観賞、2024年インド、オニル監督作品。「カシミール語を主言語とした初のLGBTQI+映画作品」とのことで英語の原題はWe Are Faheem & Karun。カシミールの実家に帰省した大学生のファヒームと南部インドから検問所に派遣されたカル…

黒川の女たち

第二次世界大戦下の満州において接待という名のもとに行われた性暴力、それにより何十年も続く苦しみと尊厳の回復の手触りを記録したドキュメンタリー。作り手の訴えがよくよく伝わってくる内容と構成だった。「これは日本の縮図だ」とは反省しない、総括し…

BAD GENIUS バッド・ジーニアス

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年タイ)では主人公リンの父は教師だったがこのリメイクではランドリーを経営している(演ベネディクト・ウォン)。国内の階級差でなくアメリカに生きる移民の話というので設定が色々変わっている。リン(カリー…

犬みたいな日の午後

U-NEXTでの配信開始を機に視聴、この邦題は原題の개같은 날의 오후の通り。1995年韓国、イ・ミニョン監督作品(監督は作中のみならずエンディングの歌も歌っている食堂の女性役イム・ヒスクの弟だそう)。「全国の気温が36度以上まであがった」記録的猛暑の…

ハルビン

映画は1905年の乙巳保護条約締結に反対し自決する者や独立運動に身を挺する者が多く出たとの文に始まる。これはアン・ジュングン(ヒョンビン)のみならず、「ぼくらの名前は日本の歴史に残らない」と話すキム・サンヒョン(チョ・ウジン)や両班に虐げられ…

映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!

冒頭から退職代行に男の日傘と昨今の話題がこれでもかと詰め込まれているけれど、うまく話を盛り上げているし、「時代は変わる」がテーマなのだから、後で見たらあったね~こういう話題!と思われるであろうこういう要素を取り入れるの、私はいいと思う(イ…

かたつむりのメモワール

オープニングから過去に遡り、なるほど主人公グレース(サラ・スヌーク)の生い立ちから始まるのかと思いきや、映画の大方は彼女がこれまでの人生をかたつむりのシルヴィアに語る内容という構成。聞き手の歩みがのろいので語っても語ってもまだ目の前にいて…

雪解けのあと

「コンパスは二人共有だ、二人で使ってた」。チュンとユエを洞窟で発見、救助した人が二足の靴を並べた間にコンパスを置く。その人が「『男の子』の方の靴は今は自分が履いている」のも含め、それはユエの言によれば「兄弟であり恋人」である二人の歩みがそ…

脱走

(以下、結末に触れています)ドキュメンタリー『マダム・ベー 脱北ブローカーの告白』(2016年韓国)の、ようやく辿り着いた大都会ソウルの空撮に「共産主義の蛮行を忘れてはいけません」というプロパガンダの声が重なる演出は忘れ難い。北から来た人々に対…