マイ・ハート・パピー


主人公ミンス(ユ・ヨンソク)は犬のルーニーと、従兄弟のジングク(チャ・テヒョン)と、恋人ソンギョン(チョン・インソン)と、手と手で愛情を確認し合う…ことから彼にとって、この映画にとって、犬とは自分で選んだ大切な家族なのだと分かる。冒頭のミンスルーニーのためのルーティンに、案外これまでの映画やドラマで見たことがない要素が詰まっているなと思ったのは、大切な存在と離れなければならなくなるという危機はこの類の「ペット」要素がなければ生まれ難いからだろう。

話はミンスの「結婚して一緒に新居に住みませんか」にソンギョンが自分は犬アレルギーで会う時はいつも薬を飲んでいたと打ち明けるのに始まる。そんな重大なことをなぜ黙っていたのかという問題については、彼女の気持ちも分かるし、彼の方も母親から相続した家につき黙っていたのでお互い様だということになっている。この映画では誰もが近しい相手に大事なことをなかなか言わない。叔父さんもジングクを理由を告げずに呼ぶしジングクもミンスに借金の返済について終盤まで口に出さない。映画はこの、もしかしたら「韓国人」らしい振舞いについてジャッジはしない。

ルーニーの引き取り手に身内しか想定していないミンスに対し、フォロワー3千人というジングクは「宣伝料」目当てにインスタで犬の飼い主を募る。この「なんで(ルーニーの引き取り手を)家族に限るんだ?」という展開が面白かったのに、見知らぬ人々に会いに行く旅のあげく既存の家族のうちで物事を済ませてしまうのが私にはつまらなく思われた。ちなみに日本ふう居酒屋での会話における「(フォロワー数について)3万人じゃあるまいし/その年で?」とのミンスのセリフには、韓国では人の注目は若者しか集められないと考えられているのかと思った。日本でもそうなのかな。

映画の終わりでなく始めに安全に撮影しましたとの文が出るのは、箱に詰められ捨てられたり虐待されたりしている犬が出てくるので見ている間に撮影時のことを心配しないようにとの配慮だろう。しかし韓国の映画やドラマで弱者の側からの暴力がお笑い要素として使われるというの、減ってきてはいるけれど、ここにもまだ少し残っていてそこだけ嫌な気持ちになった(ユ・ヨンソクと子どもの絡みに『賢い医師生活』での小児科医・アン先生を思い出していたら…)。