旅と日々

日本語がない(私には目視できなかった)が日本だと分かる、ラナ・ゴゴベリゼの著書を念頭に言えば美しくはないビル群の光景に次いで、襖の前に座って湯呑みと鉛筆削りを前にノートに向かうシム・ウンギョン。彼女演じる李が書きつけるのが韓国語なのは、後…

平日の記録

所用で木曽へ。木々は紅葉し切って木曽駒は冠雪、立冬前日だったけど本当に冬の手前だった。 道の駅で食べた新そばにかき揚げ、木曽牛コロッケ、開田高原アイスクリーム工房のとうもろこしソフトクリーム、どれも美味しかった。買い物も楽しく、中でもピクル…

あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。

フィリップ・プティに憧れ「へり」を歩いていて落ちた初恋の人の笑顔にかぶる、「彼のことをどう紹介しよう」…そうだよね、好きな人なら迷うよねと思うオープニング。主人公ドンジュン(ホン・サビン、長じてシム・ヒソプ)の「夢は別の宇宙の自分になること…

ハッピー・バースデイ

東京国際映画祭にて観賞。2025年エジプト、サラ・ゴーヘル脚本監督作品。「私はタダでも働く」、母や姉達のように魚をとるよりずっといいしネリーと友達だから…と思っていた誕生日を持たない少女トーハが、雇い主の家の娘ネリーの誕生日を通じて自分は「働か…

マスターマインド

東京国際映画祭にて観賞。2025年イギリス・アメリカ、ケリー・ライカート脚本監督作品。冒頭の一幕で美術館を去る際パパと呼ばれるムーニー(ジョシュ・オコナー)だが、自身の家では裏口から出入りし打ち合わせは地下室、食卓では判事である父親(ビル・キャ…

ローズ家 崖っぷちの夫婦

『ローズ家の戦争』(1989年アメリカ)を30数年ぶりに見て印象的だったのは、バーバラ(キャスリーン・ターナー)とオリバー(マイケル・ダグラス)がパーティでのある事につき言い合いになるも最後にはあいつらには分からないさと笑い合って寝るところ。共…

女性の休日

日本公開に際してのメッセージでアメリカ人女性のパメラ・ホーガン監督いわく「アイスランドを旅行で訪れた時この話を知り絶対映画になっているはずと見たくてたまらなくなったが無かった、だから作った」。近年の数々の映画同様に力強く証言する女性達の顔…

ハード・トゥルース 母の日に願うこと

パンジー(マリアンヌ・ジャン=バプティスト)は妹シャンテル(ミシェル・オースティン)に「とにかく目を閉じて横になりたい」と漏らすが、映画は全ての窓にブラインドがきっちり下ろされ(尤も他の家もそうだが)何も窺えない家の中で目覚める彼女の叫び…

連続殺人狂騒曲/時間旅行についてのよくある質問

サム・フリークス Vol.32にて「人がたくさん死ぬコメディ2本立て」を観賞。 ▼『連続殺人狂騒曲』(1970年チェコスロバキア、オルドジフ・リプスキー監督)は主人公ジョージ(ルボミール・リプスキー)とのデートを決めたサブリナ(ジリナ・ボダロヴァ)への…

少年テンジャンイ

コリアン・シネマ・ウィーク2025にて観賞、2025年チョ・ハンビョル監督作品。定型すぎながら悪くないお話だけど、見せ方がうまくなく勿体ないと思った。ジェ二―(カン・ジヨン)がみそおじや?をくそ旨い!と食べるあたりまでは入り込めなかった。テンジャン…

ホーリー・カウ

ジャンル「親子が同じ店で夜遊びしている映画」である。それが示しているのは、その作品の舞台は映画であまり描かれない場所、狭義の世界だということだ。映画の終わりの「たくさん横転する」ストックカーレースの映像のいわゆるドキュメンタリーぽさに何故…

見はらし世代

電柱の住所から「成城」かと思える、背後を横切るのが引っ越しのトラックだと分かる、そういう時に母語の、自分の領域の映画を見る有利さを感じる。映画とはそういうものだがこの映画はとりわけそれを感じさせる。さて成城で分かれる際に恵美(木竜麻生)が…

エリザベートと私

「ザンドラ・ヒュラー 変幻する〈わたし〉のかたち」にて観賞、2023年ドイツ・オーストリア・スイス、フラウケ・フィンスターヴァルダー脚本監督作品。結婚と修道院のどちらも嫌ならと母の命で皇后付きの侍女となった伯爵令嬢イルマ、「私」(ザンドラ・ヒュ…

ラッチョ・ドローム

奇想天外映画祭にて観賞、1993年フランス、トニー・ガトリフが自らのルーツであるロマの旅の歴史を一本の映画に収めたミュージカル。熱いけど滑らかな中にすっと飲み込まれる。風と動物に装飾品、「砂漠の果てにお嫁に行くのは辛い」といったような歌と共に…

ジュリーは沈黙したままで

目にした宣伝文の幾つかにあった「彼女はなぜ沈黙しているのか」が私には暴力的に思われ、映画自体は無関係と思いつつ腰が引けていたんだけど、見てみたらその自然さがとてもよかった。なぜ沈黙しているのかなんて言われてしまうようになった今こそこのよう…

ハンサム・ガイズ

『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』(2010年カナダ・アメリカ)の、都会の美人が田舎者でガールフレンドもいたことのない自分と根は同じで優しく最後には恋人になるという、お腹いっぱいで白ける要素が15年後のこのリメイク版にはない。ジェピ…

レクイエム

「ザンドラ・ヒュラー 変幻する〈わたし〉のかたち」にて観賞、2006年ドイツ、ハンス=クリスティアン・シュミット監督、70年代に悪魔祓いの儀式を受けたドイツ人女性アンネリーゼ・ミシェルの実話を元に創作された作品。1.2倍速で見せられているようなせか…

秋休みの記録その2

韓国旅行中に食べたもの。初めてやってみた冷麺を肉で包んで食べるというスタイル、なかなかよかった。光州では松汀トッカルビ1号店へ。帰りのサービスのチョコアイスまで満足。パリバゲットの先月オープンした光化門1945店には「韓国の伝統」がテーマのシグ…

秋休みの記録その1

秋休みの4日間を韓国にて。あんまり色々したので記録のみ。2日目、光州民主化運動の場と歴史を見に行った。早朝にKTXでソウルを発って丸一日、5.18時計塔から全日ビル、5・18民主化運動記録館、518番のバスに乗って国立5.18民主墓地まで。3日目は国立中央博…

サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件

村でたった一人のサッパルー(葬儀屋)のザック(アチャリヤー・シータ)が言うことには、「葬儀屋が守るべきは死者は全て平等だということ」「死者は先生、生者は生徒」そして「死者と生者は分けられねばならない」。それに則り、病で動けなくなった彼の代…

テレビの中に入りたい

物語の始め、オーウェン(長じてジャスティン・スミス)はテレビ番組『ピンク・オペーク』をCMでしか知らない。子どもは往々にして断片のみを掴まざるを得ないはめになるが、ここではその理由は「10時に寝ると決められているから」、親の支配下にあるからと…

殺人配信

終わってみれば、これならパク・ソンウン主演『配信犯罪』(2022年、感想)の方がまだ納得できた。今どき「若い女性が薄着で殺される」なら描くのに本気の覚悟か陳腐でなきゃならない理由のどちらかが必要で、本作には後者があるようなないような、「警察は…

ジャニス・イアン 沈黙を破る

Peter Barakan's Music Film Festival 2025にて観賞、2024年アメリカ、ヴァルダ・バー=カー監督作品。「テレビ」の中のレナード・バーンスタインに始まり、少し遡ってジャニス・イアンが13歳で書いたSociety's Childが世に出るまで(バーンスタインがホスト…

メイヴィス・ステイプルズ ゴスペル・ソウルの女王

Peter Barakan's Music Film Festival 2025にて観賞、2015年アメリカ、ジェシカ・エドワーズ監督作品。前日にアンコール上映で『七転八起の歌手 バーバラ・デイン』(2023年、感想)を見たばかりなので、ジャンル融合のショーに出演したボブ・ディラン、バー…

七転八起の歌手 バーバラ・デイン

Peter Barakan's Music Film Festival 2025のアンコール上映にて観賞、2023年アメリカ、モーリーン・ゴスリング監督作品。フォーク、ブルーズ、ジャズの歌手であり社会運動家、フェミニスト、FBIに監視され「政府の思惑通りになっていれば全く違うレベルで売…

ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家

映画の終わり、2018年末のフィルハーモニー・ド・パリでのコンサートがその場にいた人々の証言を交えながらかなりの尺を取って再現されるのを見ながら、これは愛と死の物語なんだと思った。クロード・ルルーシュの言うように「称賛から愛が生まれる」ならこ…

マリアンヌ・フェイスフル 波乱を越えて

Peter Barakan's Music Film Festival 2025にて観賞、2017年フランス、サンドリーヌ・ボネール監督作品。『裸のランチ』を読んで実践したくなったと始まる路上生活の話に『やわらかい手』(2007年ベルギー、ルクセンブルク、イギリス、ドイツ、フランス)で…

平日の記録

新丸ビルにオープンしたカフェアアルトで、ランチ時のカフェアアルトセット。ヘルシンキのお店を知らないけれど、狭いながら調度や眺めが心地よい。サーモンスープもシナモンロールも美味しかった。今度はビルベリーのタルトやパイを食べたい。夏の終わりの…

最後のピクニック

本作主演のナ・ムニも出ている『ディア・マイ・フレンズ』(2016)に『まぶしくて』(2019)、直近なら『天国より美しい(邦題「君は天国でも美しい」)』(2025)とドラマなら高齢女性が主人公の韓国作品を幾つも見てきたけれど(しかしどれもキム・ヘジャ…

ふつうの子ども

「ふつうの子ども」とのタイトルに小学四年生の唯士が登校時のエレベーターに一人乗る顔のアップ、つまり現実では見られないものを見るのに始まり、話が進むにつれカメラが引いていくのに従い、「ふつうの大人」の姿も含め私達のいつもの世界が違ったふうに…