プリシラ

あまりに教科書みたいな映画でびっくりした。やばい男に捕まった子どもの辿る段階が分かりやすく丁寧に描かれている。その中に女がよくよく男からされることが散りばめられている。当たり前だよな根っこは同じなんだからと気付かされる。 出会いのパーティで…

リンダはチキンがたべたい!

キアラ・マルタが主導の共同作品とのことだし、同じ作家でもそりゃあ作品によって違うだろうけど、セバスチャン・ローデンバックの前作『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』の主人公は自慰したり放尿(というのがぴったりくるやり方で)したり過酷な…

アイアンクロー

アメリカによるモスクワオリンピックのボイコット宣言をリビングのテレビで見る一家。四男ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)の五輪出場の夢は潰える。父フリッツ(ホルト・マッキャラニー)は後に「世界はおれたちの夢を壊しにかかる」と言うが、大き…

石炭の値打ち

1977年にBBCのドラマシリーズ「Play For Today」で二週に渡って放送されたバリー・ハインズ脚本、ケン・ローチ監督作品を、特集上映「サム・フリークス Vol.27」にて観賞。「ケン・ローチ、トニー・ガーネット、また彼らの脚本家たちも、労働党と労働組合が…

パスト ライブス 再会

「移民でカナダに来た時は泣いてばかりだったけどそのうち泣くのをやめた、誰も私に関心なんてないと分かったから」に、冒頭の「24年前」にナヨン(英語名ノラ、長じてグレタ・リー)が泣いていたのはヘソン(長じてユ・テオ)が気にしてくれていたからなの…

成功したオタク

「自分と同じような人が大勢いると知って安心した」とのオ・セヨン監督の言葉にそうか、そういう繋がりって大事だよねと見始める。彼女は自分と同じような人…「推し」に性犯罪者になられてしまった人、変な日本語だな…のことを친구=友達と言う(同じ意味と…

RHEINGOLD ラインゴールド

「ママは父親代わり(Mama war der Mann im Haus)」にはママはママじゃいけないのかと思うけれど、ジワ・ハジャビはカター(長じてエミリオ・サクラヤ)にとっては、フセインの弾圧下では子らに歌を教える先生となり銃を手に戦士となり(と伝え聞く…当時彼…

私が女になった日

イスラーム映画祭にて観賞。2000年イラン、モフセン・アフマルバフ脚本、マルズィエ・メシュキニ監督作品。舟(の帆)、自転車、飛行機と冒頭の乗り物が次第に大きくなっていくオムニバス映画で、最後に同じ日の出来事と分かるけれども、主人公は明らかに繋…

辛口ソースのハンス一丁

イスラーム映画祭にて観賞、2013年ドイツ、ブケット・アラクシュ監督作品。トルコ系移民二世のジャーナリスト、ハティジェ・アキュンの自伝小説が元なんだそうで、映画制作から十年以上経った今、作中の皆、いや著者はどうしているだろうと考えた。作中のハ…

コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話

ジョイ(エリザベス・バンクス)が受ける人工妊娠中絶施術が、20分まるごとではないけれど長尺で丁寧に描かれるのがよい。『17歳の瞳に映る世界』(Never Rarely Sometimes Always)で印象的だった他の女の手はこの時にはなく、ひとり冷たい枠を握り割れた天…

12日の殺人

実話を元にした本作は男ばかりの警察内の部署(女が数名いるのが余計に「男ばかり」と思わせる)に始まる。新班長のヨアン(バスティアン・ブイヨン)が殺人現場で入手した電話に掛けてきたナニー(ポーリン・シリーズ)に被害者の名前を聞いたり訪ねた家で…

春休みの記録

春休みの4日間を釜山にて。船で一泊したいと予約していた関釜フェリーから三日前に運休のお知らせが来たので、応援に乗ってみたかったエアロKで清州へ、そこからKTXで釜山へ。機内で飲んだボナンザコーヒーのエアロブレンドの美味しかったこと。今回の滞在で…

アユニ 私の目、愛しい人

イスラーム映画祭にて観賞、2020年シリア=イギリス、ヤスミーン・フッダ監督作品。アサド政権下に行われている強制失踪を世に訴えるドキュメンタリーで、作中では2011年からの被害者の数が10万人とあったけれど上映後のトークによると現在は15万人を超えて…

ビニールハウス

暗くて何も見えない「いい眺め」の前に座るムンジュン(キム・ソヒョン)の姿に、それまでの積み重ねでその心が伝わってきて、「家」がテーマの韓国映画は数あれど男性の家長が主人公のものが殆どで女性のものは本などでは読むけど映像では見ないな、だから…

俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー

ピーター・ファレリーの新作は、終盤ある人物が言うように「これぞ物語」で面白かった。コメディは、あるいは映画は全てそうなのかもしれないけれど、要素の組み合わせが物を言う。また男達がつるんで女達から逃げる話かと見ていたら(ジョン・シナ演じる物…

ゴールド・ボーイ

丁度見終わったドラマ、コロンボをオマージュした『ポーカー・フェイス』(2023年アメリカ)同様ある殺人から時間を遡る冒頭。終盤まで隠されたある真実はモノローグ(後にある目的のための「日記」と分かる)で予想がつく。東静(松井玲奈)と東厳(江口洋…

リトル・リチャード アイ・アム・エヴリシング

ミュージシャンよりも、リトル・リチャードを知っていた人や当事者などの「ファミリー」、加えて専門家が多数登場してその伝説をクィアネスを踏まえて語り直す内容。「怖がられないようクィア要素を強調するなんて奇妙に聞こえるよね」、後年伝道師に転換し…

地球は優しいウソでまわってる

初めて手掛けたフィクションをいまいち気に入らないエージェントに「今は色んなエスニシティと競わなきゃいけないからね、難民とか癌患者とか」と言われたベス(ジュリア・ルイス=ドレイファス)が妹サラ(ミカエラ・ワトキンス)と共に母を訪ねての席で「う…

FEAST 狂宴

フィリピンの日常を収めたドキュメンタリーのような冒頭の映像ではのんびりしていた音楽が事故が起きるや悲劇的なものに変わるのに、一瞬の不注意で多くの人生が変わってしまうことを訴える運転者向けの講習ビデオを見ているような気持ちになるが、次第に奇…

アメリカン・フィクション

これでどうだと自棄もあっての社会運動のつもりで垂れたクソが「馬鹿をすることが金になるアメリカ」では祭り上げられ、「いかにも黒人だ」と言われたあげく世に出て大金になるというお笑いと、主人公モンク(ジェフリー・ライト)の「黒人らしくない」がハ…

マダム・ウェブ

孤独を感じていた女四人が家族になり「未来は『まだ起きていない』」ということを武器に闘うようになる…という前日譚なわけだけど、お話はもとより細かい描写の数々が面白かった(映画にはそれこそが大事)。タハール・ラヒム演じる悪役エゼキエルが登場する…

落下の解剖学

冒頭ヴァンサン(スワン・アルロー)が白い紙に図解しながら「ぼくらはこの線を通さなければ」と言うのに、法においてどうこうという意味じゃなく、なぜ自分の無罪だけでなく他の話を示さなきゃならないのかと思いつつ見始めたら、これは皆が自分の物語を通…

ソウルメイト

(以下「ネタバレ」しています)序盤はオリジナルにない要素である「教室の空席」「雨に濡れた子猫」などをクリシェに感じて乗れなかったけれど、ミソ(キム・ダミ)とハウン(チョン・ソニ)が文通するあたりから引き込まれる。私にはこれは「女は旅ができ…

ぼくの好きな先生

早稲田松竹の二コラ・フィリベール特集にて久々に観賞、2002年フランス制作。序盤は子ども達がこちらをちらと見てくるのが授業参観あるいは研究授業…という既成の、日本の言葉はしっくりこないけど…に参加しているようで楽しい。牛のそんなように見える目つ…

ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ

こんなの絶対助からないだろ!というホラーそのものの冒頭からうってかわっての、主人公マイク(ジョシュ・ハッチャーソン)のドラマがあまりに丁寧。朝の腕立て伏せ、家賃滞納の貼紙、まだ幼い妹のアビー、天井に貼ったネブラスカのポスターと「自然音」の…

非常に残念なオトコ

舞台は現代のバークレー。ステファニ―・シューとロニー・チェン主演のロマコメ(Crazy Rich Asians(2018)のパロディ)に「あれがおれたち!」と盛り上がる「イーストベイ・アジアン・アメリカ映画祭」。主催者の一人であるミコ(アリー・マキ)は帰宅後、…

カラーパープル

アリス・ウォーカーの小説は未読。スピルバーグ版(1985)と同じく映画はセリーとネティの姉妹が手遊びしているのに始まるが(後にネティが言う「まず遊ぼう」…「女の子だって楽しみたい」もんね)、二人が座る木の下をミスター(コールマン・ドミンゴ)らし…

同感 時が交差する初恋

素晴らしいリメイクだった。オリジナルの『リメンバー・ミー』(2000年韓国)が若者達のいわゆるメロドラマといった感もあったのに対し、こちらは男女の役を逆転させた上でヨ・ジング演じる主人公キム・ヨンにほぼ焦点を絞っている(告白した相手の反応も見…

瞳をとじて

「不思議だった、登場人物が父だと言われる、顔や体より声で分かった、電話の声だったから」とは序盤に衝撃的なほどのどアップでアナ・トレント演じるアナが口にするセリフ。エリセの映画は『ミツバチのささやき』で村に映画がやってくるのに始まり、その映…

楽園

マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞。2023年ベルギー、ゼノ・グラトン監督作品。主人公を演じるハリル・ガルビアがオゾンの『苦い涙』と全く違う役であるところが面白い。役者はどんな役でもやれるという意味ではなく、多く…