ハンガー・ゲーム0


Pure as the driven snowをコリオレーナス・スノー(トム・ブライス)の名に掛けて「誰もが清らかに生まれてくるが、そのまま生きていくことはできない」とルーシー・グレイ(レイチェル・ゼグラー)は歌うが、この前日譚は「あの人はなぜあんなことをするの?」と問うた少年(従姉は「お腹が空いているから」と答える)が人殺し国家のトップとして歩み始めるまでの話である。そんなことを自分がすると思いもしなかった二人が共にゲーム中に人を殺した後、再会の場で彼女につきまとう元恋人を躊躇なくぶん殴るところで作中唯一、少し涙がこぼれてしまった。

「共に世界にどう対峙するか」がテーマである今、序盤の「二人の世界で」「二人で勝とう」の時点でもう関係の終焉が見える。「二人だけ」じゃいられないんだから。元来支配欲もあるコリオレーナスに対し「人間は善良である」を信念とし愛より信頼を重んじるルーシーにとって、一輪の花や「守ってあげる」の誓いなどにさほどの意味はなく「(殺すのは)3人で十分だ」で疑念が転がり始める。ゲームの考案者ハイボトム(ピーター・ディンクレイジ)は「女も手に入れようとするなんて」と言ったものだが、争いのない世ならこのような二人でもやっていけたのかもしれない。

映画は両親を亡くし貧乏暮らしのコリオレーナスが同居の従姉タイガレス(ハンター・シェイファー)から晴れ舞台にと「カーテンにまぎれこませて漂白してもらった」「じゃがいもで作った糊を利かせた」シャツを渡されるのに始まる。一作目からのトリッシュ・サマーヴィルによる衣裳がシリーズ一といってもいいほど見事で、それらがこの物語の65年後が舞台である一作目や二作目には「色物」ぽく映りもしていたのは今振り返ると退廃を表していたかのようだ。