パーフェクト・ケア


アヴァンタイトルの「いつものお仕事」描写において、マーラ(ロザムンド・パイク)は怒り心頭の男に「女に負けてむかついてる?私がペニスに怯むと思う?むしろ逆、何かしてきたら棒も玉も引きちぎってやる」と返す。心配する恋人フラン(エイザ・ゴンザレス)に曰く「男は思い通りにならないと脅してくるけど何もしやしない」。彼女の合法悪事に抵抗の姿勢を見せるのは男ばかりじゃなかろうと思うが、多くの映画に都合がある、これはこの映画の都合である。後にやって来た弁護士ディーン(クリス・メッシーナ)の取り引きに乗らないのは、背後の男(迷いもなくheを使うような奴のボスは男に決まっているからね)はどんな手に出るだろうと興味を惹かれたふうにも取れる。

(以降、少々「ネタバレ」しています)

尤もこの「悪事に手を出したら後に引けない(ゆえに大ごとになる)」というのは同じJ・ブレイクソン監督の「アリス・クリードの失踪」(2009)にも見られた要素である。以前からの人間関係が話の発端になるところも同じ。残念だったのは、「アリス~」の三人の作る二つの組み合わせに存在した恋慕にあたるのが本作ではマーラが狙いを定めたジェニファー(ダイアン・ウィースト)とロシアンマフィアのローマン(ピーター・ディンクレイジ)の親子関係と言っていいんだけど、この母親ががっかりするほど何物でもなかったところ。死人へのなりすましもダイヤモンドの窃盗も息子の手によるもの。今どきのフィクションじゃ珍しいくらいの、居るだけの女だと思った。

結局のところ、人を食い物にする悪党二人を演じるのがロザムンド・パイクピーター・ディンクレイジであるというところにこの映画の一番の面白さがあるように私には思われた(共にやたら体を鍛えている描写が挿入されるのがよい)。狩場の異なる二人の争いの原因は彼の母親のようで実は互いに自らが築いてきたものが侵されたから(故に、たまにこういうことがあるけれど、後半ダイアン・ウィーストは映画から姿を消してしまう)。運び屋に関する会話に表れているようにローマンが人の命をも踏み潰しているのに対し、マーラは人を殺さないと決めている(だから息子の部下に銃で殺人を犯させたジェニファーに「ルールを破った」と詰め寄る)。彼女は最期、自身のルールの外から攻撃されたと言える。あんなルールを持たなきゃよかったのにとナンセンスなことを考えた。少々がっかりさせられる幕切れだった。