今日、キミに会えたら


今年映画で観たお気に入り若者カップルは「ハンガー・ゲーム」(感想)のジェニファー・ローレンスジョシュ・ハッチャーソンで決まりだけど、本作のフェリシティ・ジョーンズアントン・イェルチンってのも強力すぎる。ちなみにどちらも、羨ましいとか素敵とかってわけではない。


今日、キミに会えたら [DVD]

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こじんまりした教室にて、「文章が好き」なアンナ(フェリシティ)は論文を発表、「絵が好き」なジェイコブ(アントン)はノートにデザイン画を描いている。視線のやりとりに始まり、手から手へ渡る文章、電話での会話、カフェでの向かい合い、帰り道に並んで歩く背中、彼女のベッドでの横並び…二人の距離が段々縮まって、重なり合っていく。この冒頭に魅せられた。二人の表情や仕草を物陰や人陰から覗き見しているような映像、時間の経過と変化を上手く見せてくれる構成がいい。


ロンドンから留学中のアンナは、ジェイコブに「卒業したらどうする?」と問われると「なんとかなるわ、後で考える」と答えたあげく、一緒に居たいからと不法滞在をしてしまう。母親に今後について聞かれると「今はやめて」と遮る。「考えなし」なんだけど、そのことが問題視されるわけではない。かといって、二人を阻む、アメリカ政府による「お役所仕事」が悪役にされるわけでもない。そこが良かった。
離れて暮らすうち、どうしても会いたくなったアンナがジェイコブを呼び出した後の、ロンドンでのひととき、その描写に、町で見かけるどんな二人にも、それぞれの事情があるんだろうなと思わせられる。そういう気持ちになれる映画っていい。それは彼らが「一般化」「定型化」されていない、ただただ「そういう人」として描かれてるから。


アンナの両親と4人で食事やゲームに興じながらも、その空気は、決まったところに向かって流れてはいない。全編を通じて揺らぎというか動きというか、そういうものを感じる。更に冒頭のゴーカートや船において一人ずつ座ってるのに象徴されるように、「二人一組」って扱いじゃない。そういうとこも良かった。
アンナいわく「立ち止まっては歩き出すってことの繰り返しは辛い」。ゴールでもスタートでもない結婚の後、空港でジェイコブを送った彼女がそのまま留まり、周囲だけが流れ、再びやってきた彼と共にまた彼女の時間が動き出す、というくだりが印象的だった。


ウイスキーが大好きな父親を持ったアンナは、初めてジェイコブを呼んだ時から飲ませるほどのお酒好き。しかし後にサイモンと付き合うようになると、お酒を控えジョギングを始める。母親いわく「娘を運動させたのは、あなたが初めて」。「自分が君の一部って感じがしない」と言うジェイコブと、「ジグゾーパズルの一番大事なピースが君」と言うサイモン。どっちが絶対ってわけじゃなく、どっちと一緒にいても、それなりの彼女になるんだろうなと思う。


アントンはシャワー中やその後の場面では、どうしても薄くなった頭髪から目をそらしてしまう(笑)フェリシティは海辺は勿論、部屋でも飛行機でも裸足が似合う。「ウェンディ&ルーシー」(感想)のミシェル・ウィリアムズ同様、ものを「書く」場面があり、おそらく「直筆」と思われる文字がたくさん映るのがいい。