イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり


実話を土台にしているが、エディ・レッドメインが実在の気象学者ジェームズ・グレーシャーを演じているのに対しフェリシティ・ジョーンズ演じる操縦士の「アメリア」・レンは男性から架空の女性に置き換えられているんだそう。「気球操縦士と彼の妻」として気球に乗っていた彼女が「二人の気球操縦士(Two aeronauts)」の一人となり、「The Aeronauts(原題)」へ続くという話である。

映画はアメリアによる「世界は見ているだけでは変えられない、私達が何を選びどう生きるかによってのみ変えられる」というこちらへの語り掛けに終わる。私にはこの物語は、ボーダーは時代によって変わるのだから常に変化し続けようというメッセージに思われた。二人は世界を変えるという気概でもって前人未到の空へ飛び込み、ボーダーを動かし、共に生還する。ジェームズが言うように「楽しませるためでなく知識の更新と全ての人の幸福のため」に。

天気を予測するなんてと王立協会で笑われるジェームズが「ニュートンだって当時は疑われていた」と言うと父は「彼の業績は偉大だ」と返す。評価(笑われるか否かのボーダー)なんて時代によって変わる、誰かが変えたということだ。彼は実際に大気の中に出られればと経験のあるアメリアを「君が必要だ、助けてくれ」と口説く。その際に口にする「これまでのどんな男性、『または』女性も」行ったことのないところにという作中何度も繰り返される、彼女が受け止め最後には(作中では冒頭)自ら口にするこの文言が、彼というキャラクターにおける最大の誠実さを表している。

はみ出し者の二人とはいえ王立協会に入れる男と(可能性として、入会以前に敷地そのものに)入れない女である。自分の選んだ道をゆこうとするとジェームズは同性に笑われるがアメリアは男に恐れられる。ジョーンズが前主演作「ビリーブ 未来への大逆転」で演じたルース・ベイダー・ギンズバーグに近しく、彼女はまず女の先駆者として在る。RBGの「連邦最高裁判事のうち何人が女性になったら満足するかと聞かれたら私の答えは常に『(定員の)9人』です」じゃないけれど、これまで女性は全然「描かれてこなかった」のだから未来への中途にちょこっと男から置き換えられるくらいいいだろう、と私は思う。