ショータイム!


ふらりと入ったキャバレーでの第一声「ここは誰にでも安全な場所、お金や仕事のことを忘れてお楽しみください」に次ぐショーに、愛する人に去られ祖父の代からの農場を差し押さえられようとしているダヴィッド(アルバン・イワノフ)は涙を流し自分もそのような場所を作ろうと決意する。しかしその舞台裏は、すなわちダンサーのボニー(サブリナ・ウアザニ…ってそうだよね、二人は『クイーンズ・オブ・フィールド』でも共演していたよね)にとってはそこは安全な職場ではなかった。「30にしてカードも家もないのはなぜだか分かる?男からの誘いが多すぎたから」が大変にリアル。これはお客にとっても働き手にとっても安全な場を皆で作り上げるまでの話であった。

リハーサルでのドミニクのステージに心と体の中いっぱいに安堵感が広がり、ふと映画『ダンプリン』(2019)でダニエル・マクドナルド演じる主人公達がジンジャー・ミンジらドラァグクイーンのショーを見に行く場面を思い出した(いずれの映画も実際のスターが出演しているのがよい)。しかし皆がうっとりする中ボニーは「なぜ楽しい曲をやらないのか」と責める。ドミニクの「ゲイは笑わせろって?」との返事に彼女が受けている差別や偏見の数々、私の中に沸いた元気なるものがその上に成り立っていることが表れている。映画の終わりはダヴィッドの母ミレーユ(ミシェル・ベルニエ)から農家の女にとってのその曲の意味を教えられたドミニクによるLet Me Danceだが、自分は安全だと確信してこそああいうステージが出来るのではと考えた。

重責によるストレスゆえとも取れるように描かれていたけれど、ボニーがドミニクに「悪気なく」見せたこの態度は自分自身にも向けられているように私には見えた。詐欺男に「おれと出会った時は『ケツ』丸出しでポールと絡んでたくせに」と言われる彼女は…そうしたことこそ女の一番の弱みだとする男の態度が移ってしまっており…自分は「ケツ」を見せなければお金が取れないと思っている。それがドミニクに見せた先の偏見と繋がっている。そうした抑圧から抜け出した最後のステージでの笑顔は素晴らしかった。