映画

ペルシアン・バージョン

東京国際映画祭にて観賞。2023年アメリカ、マリアム・ケシャヴァルズ監督作品。冒頭、主人公レイラ(レイラ・モハマディ)が『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のヘドウィグ(を日常的に演じている男性)とまぐわいながらこちらに向かって語りかけて…

ライ麦のツノ

東京国際映画祭にて観賞。2023年スペイン/ポルトガル/ベルギー、ハイオネ・カンボルダ監督作品。出産の場にいる四人の女の顔を順に丁寧に映していくオープニング。父親と思われる男性も入って来るが幼い息子と共に姿を消すのがその後の展開を予告している…

タタミ

東京国際映画祭にて観賞。2023年ジョージア/アメリカ、ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ監督作品。冒頭、他国の選手との会話でレイラ(アリエンヌ・マンディ)は自身が送っているのは「異常な生活」だと言う。300グラムを20分で減らし躊躇なくヒジャブを剥…

Totem

東京国際映画祭にて観賞。2023年メキシコ/デンマーク/フランス、リラ・アヴィレス監督作品。母と娘がはしゃいでいると外から「公共のトイレなんだから」と声をかけられるオープニングにうちじゃないのかと思い、タイトル後の続きになるほどこれは7歳のソル…

巻く

コリアン・シネマ・ウィーク2023にて観賞、2021年クァク・ミンスン監督作品。ドラマ『ムービング』であっと驚く役どころだったシム・ダルギ演じるジュリは大学を中退し25歳で無職、「私が保証金の3分の1は出した」部屋に一人、ゲームと出前三昧で暮らしてい…

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)の自宅に夫ジル(グレゴリー・ガドゥボア)が戻って来るオープニングに、もし私が暴行されたと警察から連絡を受けたらパートナーはこんなに落ち着いていない、すっ飛んでくるだろうなどと違和感を覚えるが(尤も…

ザ・クリエイター 創造者

冒頭に出る「『ニルマータ』とはAIが崇拝する彼らの創造者」云々との文に、AIにとっての崇拝とは何だろうと思うも、見ているうちにこの映画には彼らの宗教の誕生が描かれているようだと分かってくる(結果的にあれは世襲制…になるのだろうか)。ともあれマヤ…

シック・オブ・マイセルフ

冒頭シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)はことあるごとに「トーマス(エイリック・セザー)にさせられたこと」を思い返している。全く優しくない、私なら一日で別れてしまうような彼氏だけど、話がうまくいくにつれ「役に立つ」ようになってくる。マ…

毒親

コリアン・シネマ・ウィーク2023にて観賞、2023年キム・スイン監督作品。「毒親」という言葉が日本で広く知られるようになったのはいつ頃だろうか。本作によると韓国では日本ほど一般的ではないようで、女子高校生のユリ(カン・アンナ)は「インターネット…

配信犯罪

話はテレビ局に求職中の青年ドンジュ(パク・ソンホ)がガールフレンドのスジン(キム・ヒジョン)の誕生日に彼女と連絡が取れなくなるのに始まる。友人から違法配信動画のリンクを受け取っていたことがばれたせいらしいが、冒頭よりドンジュの、友人らの行…

私には「入所者もそうでない者も同じ」という演技を磯村勇斗だけがしているように見えた。彼演じる「人じゃないものは要らない」と信じるさとくんこそが彼がそう見ている存在と同じだという含蓄ある要素を、主役の洋子(宮沢りえ)との対話などが覆い隠して…

シアター・キャンプ

「永遠の友情を見つけに来て、ニューヨークからたった4時間」(最後に皆で歌うCamp Isn't Homeの歌詞より)…4時間とは遠いな、でもアメリカは広いからなと思ったけれど、そういうことじゃないのかもしれない。二人の父親に育てられているデヴォンがステージ…

BTSの曲が使われたアメリカ映画

▼『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!(Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem/2023)』を見ていたら、タートルズの一人ドナテロの着メロがButterだった。ファンという設定なのかなと思っていたら、後半milkingの最中に彼が「やり…

ハント

「ぼくらの税金で買った銃をぼくらに向けるのか」とはイ・ジョンジェがブレイクしたという、光州民主化運動を描くために作られたドラマ『砂時計』(1994)の名台詞だが、この映画は何百人もが殺された光州民主化運動の回想シーンにおいて死体しか映さない。…

ルシアの祈り メスキートの木の奇跡

ラテンアメリカ・カリブ海グループ映画祭にて観賞。2019年メキシコ、アナ・ラウラ・カルデロン監督作品。映画の終わりに「長いあいだ差別を受けアイデンティティのために闘い続けるヨレメ族はじめ先住民の人々に捧げる」。主人公の少女ルシアの祖父母のセリ…

ダンサー イン Paris

主人公エリーズ(マリオン・バルボー)の筋肉に見惚れてしまう腕に始まる冒頭からしばらく、ダンサー同士で衣裳を留め合ったり柔軟運動をしたりという、パリ・オペラ座バレエの『ラ・バヤデール』上演前の裏側、いわば現実が描写される。ボーイフレンドの「…

PIGGY ピギー

『ファルコン・レイク』ほどじゃないけれど、宣伝から予想し得ない内容だった。夜中3時の警察署でコーヒーを前に嗚咽するサラ(ラウラ・ガラン)が心の内を吐き出そうとするのを、娘を追い込みコントロールすることでその行く道を潰してしまっている母親(カ…

ロスト・キング 500年越しの運命

スティーヴ・クーガンの関わる映画に外れなし、スティーヴン・フリアーズとの組み合わせなら尚のことと思っているので初日に観賞。当初プロデュース兼共同脚本兼、サリー・ホーキンス演じる主人公フィリッパ・ラングレーの「背景」的な役かと思いきや重要な…

ペパーミント・キャンディー/グリーンフィッシュ

特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」にて、滑り込みで二作を観賞。 ▼久しぶりに見た『ペパーミント・キャンディー』(1999)は大傑作だった。チェ・ジョンヨルの『グローリーデイ』(2015)を見た時、これは韓国の男性は美しく生まれるがみな汚…

ベネチアの亡霊

物語の舞台は原作『ハロウィーン・パーティ』の60年代イングランドの「どこにでもある村」と異なり1947年のベネチア。最後に舟で発つのは、第二次世界大戦によってとりわけ大きな傷を負った者達である。ポアロ(ケネス・ブラナー)は冒頭、原作では顔を合わ…

グランツーリスモ

ブロムカンプの映画ってこんなにテンポがよかったっけと驚いてしまった(振り返るとそれは「時間がないので」と言いつつ噺をはしょるのでなくいつもより早口で済ませる落語家…実際にあった話…のようなものでテンポじゃなくスピードの問題なのかもしれないけ…

熊は、いない

単なる街角が「映画」になってゆく見事なオープニングに、それにしても「めくるめく」すぎやしないかと訝しんでいたら、それはパナヒ演じるパナヒがイラン国内の国境近くの村からリモートで撮影している映画なのだった。始めこそ「パナヒが紡ぎたい物語の具…

6月0日 アイヒマンが処刑された日

1961年のイスラエル。父親と交換した靴を履くことはできるが炉に入れる程まだ小さな少年ダヴィッド(折角の靴は確認されることもなく炉の掃除で恐らく汚れてしまう)はアイヒマンのことを知らずクラスで浮いている。「アラブ系だから差別されていると思って…

ファルコン・レイク

オープニング、ケベックの避暑地に向かう車内で幼い弟ティティを愛おしむふうな目つき、到着してベッドの上下になど全くこだわらない様子から、主人公バスティアン(ジョゼフ・アンジェル)は不満がない、というより欲望がない、何というかまっさらな存在に…

マルコム 爆笑科学少年/愚直な殺人者

特集上映「サム・フリークス Vol.24」にて二作を観賞。いつも組み合わせが素晴らしいけれど、今回はとりわけ、これまでになく、有機的に絡んでいるように感じられた。 『愚直な殺人者』(1982年スウェーデン、ハンス・アルフレッドソン監督)の主役、「知恵…

復讐の記憶

80代のハン・ピルジュ(イ・ソンミン)が自らに刻んだ文字を目にした少女が中国語でしょ?その母親が習ってるんです、これからは中国語だからというようなことを言う場面に、今の韓国では漢字といえば中国なのかと思うわけだけど、そもそも20代のパク・イン…

あしたの少女

大手通信会社のコールセンターの目的は顧客の解約を阻止すること。現場実習生として働き始めた高校生のソヒ(キム・シウン)が客に罵倒される冒頭から、なぜこの二者が争わねばならないのかという疑問、その異様さが浮かび上がってくる。以降こんな映画は初…

エリザベート 1878

随所にこの映画の何たるかが表れている…とは随所が映画そのものなんだから奇妙な物言いだけど、そう思いつつ見終わった。エンドクレジットでエリザベートを演じたヴィッキー・クリープスがエグゼクティブ・プロデューサーでもあったと確認し彼女が踊るのを目…

マリア・ブラウンの結婚

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選にて観賞。映画の終わり近く、ハンナ・シグラ演じるマリアが室内を走り回る様にこれは愛(「これから知る」相手への愛、つまりそういう類の愛)のための家なのだとしみじみ思うが、ファスビンダーの映画で中心に…

シモーヌ フランスに最も愛された政治家

映画は幼い頃の記憶に始まる。遅くまで外で遊ぶ姉や兄に対しもう少し本を読みたいと言うシモーヌにあと10分ねと返す母イヴォンヌ(エロディ・ブシェーズ)へ甘やかしすぎだと父が声を掛ける。彼女は家庭内のいわば少数派である。しかし時を経てユダヤ人の一…