そうだった、本を作るのには糸が要るんだったと思い出すオープニングからの、作り手から読者まで含む「みんな」の本の映画。友情出演のチョ・ダルファンによる詩人の新刊イベントの場面が印象的で、空だった会場がヒョンジン(イム・スジョン)始め出版社の皆が声を掛けて集めた書店のお客でいっぱいになり、朗読に、ヨンホ(イ・ドンウク)の質問と詩人の答えに老若男女が沸く場面にじんとした。ヨンホが本への愛…過去の自分をしまい込んだクローゼットを開く場面も素晴らしい。
恐らく良心から出版社を辞めた代表(チャン・ヒョンソン)いわく「本が売れないなんてよくあること」。映画の終わり、ヨンホが一歩踏み出してヒョンジンと、いや皆と出した本は売れるわけではない。ウェブ上の評価も芳しくない。でも確実に読者に届いた。彼の「感想を教えて」に対しファンが答える「一人じゃないと安心しました」、一人だから大丈夫と言うことで一人でも大丈夫だと訴えるあたりは先日見た『ドルフィン』と通じるところがある。
韓国作品でお馴染みの「相手の靴ひもを結ぶ」場面を『破墓』のように恋愛要素なしで新鮮に使うわけでもなく、女の方が(恋人の、あるいはかつて恋人だった)男の尻を叩くのでよしとしているような類の映画ではある。出版社の女性達がヨンホの容姿を褒めるので唯一の男性であるインターンのビョンス(イ・サンイ)が「今はそういうのだめなんですよ」と抗議するも欠伸の仕草を返される、ヒョンジンにご飯を催促された父(チョ・ヨンジン)が「皆にからかわれるから…」と言いながら恋人の女性には料理しているふりをするなどの「笑える」シーンは配慮が頓珍漢だ。
『建築学概論』のスタッフによるとあったけれど、これにも初恋要素が大きい。しかしヨンホは苦い甘みといったものではなく多分시원하다で表される気持ちを得られるんだから幸せだ、ヒョンジンの言う通りみっともないものであり思い出してもやもやするのが通常である初恋に、いわば落とし前を付けられるんだから。しかし初恋ものでありながら、「現在」については、序盤の男子トイレ前でのそれまでになかった弾けるような笑顔やラストカットの「写真」をラブラインがあることの証左でなく無いことの証左として見ることもできると思って、そこが面白かった。