あのボートに乗って


EUフィルムデーズにて観賞。2022年アイルランド、デクラン・レックス監督。ネイヴオーグという手漕ぎボートが題材というので見たかったのをアイルランド映画祭で逃した作品。言葉は全編ゲール語

ダブリンで働く多忙なイーファがケリー県の実家に久しぶりに帰ってまず言われるのが「道が混んでたのか」。翌朝魚のかごをチェックする父親の舟が海上で動かないのを目にして家を飛び出しボートを漕いで近寄ってみれば…からの、もう何だよと相手を押せば自分が反動で動き出すという、ボートならではの現象に心惹かれた。

「パパはあの時なにをしてたの、海の上で飲んだくれて」。大事な時期に家族から離れていた父と放っておかれていた娘が和解するという、またそれかよという話だけど嫌な感じがしないのは描写が上手いからか大した描写が無いからか。自分より若いナオミへの「両親の仲の心配より自分を大切に」とのアドバイスは効いている。

ダブリンではジョギングで出社して夜10時まで働きづめ、帰って寝るだけというイーファが故郷ののんびりさから学びを得る、というわけでは特にないのは面白い。3人の子がいるジュードに替わってリーダーとなり怠惰な仲間を辞めさせ有望なナオミを引き入れ、パブの後継者である娘に自由時間を許さない父親に掛け合って練習に参加できるようにする。

かつてのボート仲間が車で通りかかって泳ぎに行かないと言えばプールじゃなく海、ボートの練習はマシンじゃなく必ず海。仲間いわく「ダブリンに出ようとロンドンに出ようとここが世界一」。父親に言いたいことがやっと言えただけではやっぱりだめで、その後の咆哮を受け止めてくれる仲間と「潮を知り尽くしている」故郷がイーファを救ってくれる。そういう話は得意じゃないけど、監督たちにはきっと思うところあるんだと考えた。