人生はマラソンだ!



2012年にオランダでロングランヒットした作品だそう。経営難に陥った自動車修理工場の社長と従業員が、お金を稼ぐためロッテルダムラソンに出場する。


オープニングは工場での「いつも」の彼ら。工具を握るはずの手をべちょべちょにしながらパンを食べ、ビールを飲み、タバコにコーヒー。私ならあんな注ぎ方されたら嫌だけど、誰も何も言わない。男4人が心持ちを同じくしているなんて不自然じゃないかと思っていたら、映画はそれぞれの家庭での様子を順に映していく。ライターやナイフで遊ぶ息子に苛立つギーア、乳児を放って夜遊びの恋人に哀しむレオ、自分より神との付き合いを重んじる妻に緊張するキース、母親を亡くしたばかりで女性とはうまくいかず落ち込むニコ。それから一人真面目に働く「エジプト人」のユース。「それぞれ」ということが分かり、区別も付いて(笑)話に入り込めた。


(以下「ネタバレ」あり)


実際のロッテルダムラソンでロケされている「本番」の様子が楽しい。招待歌手に大砲の専門家(?)、「コスプレ」ランナー(プレスリーの衣装を直すスパイダーマン・笑)、有名ブランド?のバナナの宣伝マン、キルトを履いたおじさん。本作にはオランダならではの人種の豊富さがあちこちから伺えるけど、一役かってるのが、誰の子だか分からないながらレオが引き取る子、というのが面白い。
「全員完走できたら借金を肩代わりしてもらう、出来なければ工場を譲る」という条件での出場だから別におかしなことでもないけど、「本番」での彼らのタイムが明示されないのがいい。先の三人はおそらくサブファイブといったところ(練習時の感じからしてすごい!)、「最後尾」のギーアがゴール間近で6時間弱なので、東京マラソンよりずいぶん高速なんだな。ともあれ、映し出される時計の示す数字には、一秒でも縮小しなきゃ、じゃなく、彼らが「走ってきた」時間を思う。


彼らが…30、40、50代の男達が、「俺たち友達だよな」と確認し合う場面が何度もあるのが印象的。病院で癌を告知され、自宅で息子にぶち切れ、工場でガラス越しに仲間達を見るギーアの目に映る、いつもの皆なんだけど、いつもと違う、という感じがよかった。皆何か違うと思ってるんだけど、どうしていいか分からない、それを初めて感じる。
ギーアが運び込まれた病院のロビー、と言うほどでもない狭い一角に「皆」が居る場面も印象的。ギーアの妹がユースについて「『エジプト人』にそそのかされた」なんて言っても誰も何も返さない。てんでばらばらのまま、長々と時が経つ。それでもこうして、一人を慕って何人もが集まる、そういうことがありえる。
男達には「女性」「同性愛者」「移民」に対して差別的な部分があり(冒頭「夫の車」を持ち込む女性に対する態度に気分が悪くなった、ああいう「悪気のない」接触って本当に嫌)、作中ではそれらが「体験」によって一部変化する様が描かれる。裏を返せば、何の体験も関与しない部分は変わらない。見ながら、私も含めて殆どの人には、自ら求めなければ「何」も起こらないんだよなあ、などと考えた。