ドルフィン


コリアン・シネマ・ウィーク2024にて観賞、2022年ペ・ドゥリ監督作品。

主人公ナヨン(ユリ)がご飯だよと呼ぶのに子どもが出てくるのかと思いきや食卓に付くのは高校生のソンウン(ヒョン・ウソク)。弟の朝食は勿論、母ジョンオク(キル・ヘヨン)が経営する工具会社の社員の分のお昼まで準備して出社する。そこまでしなくてもと言われているが…そうは言っても皆慣れてしまって彼女一人が給仕していようと構わず甘え切っているが…炊いたご飯が減っていなければ当惑してどうしたことかと様子を見に回る。

家と家族の保持に生きるナヨンが母の再婚を前に危機に陥った時、アウトサイダーとの交流が救いとなる。母に言わせれば「男を『追い出し』てボウリング場を手に入れたんだから相当な女」でありいまだ町に馴染めないミスク(パク・ミヒョン)と、「ソウルでは根付くのが難しかったから」と工具会社に職を求めて来た同じ30代のヘス(シム・ヒソブ)。一人で遊べるボウリングを通じ、いわば「一人でも大丈夫」と他者が教えてくれる「一人じゃなさ」がこの映画には描かれている。ボウリング場で一人、普通に出前したらしきお昼を食べるミスクの姿がいい。

「家庭環境の割には明るい」、そんな所見を書く教師がいるだろうかというのはさておいてもそれがずっと引っ掛かっていたのが、中盤、ナヨンが家や家族に固執しているのは、両親を事故で失いジョンオクに引き取られ、そこから懸命になって手に入れたものを失いたくないから、環境の変化が怖いからだと分かる。明るかったのも必死だったのかもしれないと。彼女がそれを誰かに言うことはないし分かってもらえることもないだろうと悲しみを覚えていると、当人がいないところでソンウンが、ヘスが、彼女のことを気にかけている。ミスクも誘ってその三人で海へ出かける場面がしみじみよかった。