4人の小さな大人たち

フィンランド映画祭にて観賞、2023年セルマ・ヴィルフネン脚本監督作品(同映画祭で見た同監督の『リトル・ウィング』(2016)感想)。「私たち平等党が最も重きを置くのは愛です」とユーリア(アルマ・ポウスティ)は党首選でアピールするが、この映画のテ…

ハッピー・ワーカー

フィンランド映画祭にて観賞、2022年ジョン・ウェブスター監督作品。両親も自分もパートナーも皆(元)教員(とはいえ銀行員から転職した父親はそれこそ「燃え尽き」だったのかもしれない、50年前の話だけど)の自分は燃え尽き症候群の研究者クリスティーナ…

ファミリー・タイム

フィンランド映画祭にて観賞、2023年ティア・コウヴォ脚本監督作品。上映前に流れたメッセージ映像での監督の「私が経験してきた実際を、映画にあまりない形で描いた」との言葉が次第に飲み込めてくる(女同士がおしゃべりするサウナシーンからしてまず見な…

バブル

フィンランド映画祭にて観賞。2022年レータ・ルオツァライネン脚本、アレクシ・サルメンペラ脚本監督作品。オープニング、16歳のエヴェリーナら女子3人が若く見えた方がいい、いや見えない方がいい、車の中で暖を取っているのがばれたらかっこ悪いなどと話し…

枯れ葉

フィンランド映画祭の先行上映にて観賞。ホラッパ(ユッシ・バタネン)がポケットから落としたアンサ(アルマ・ポウスティ)の電話番号が風に舞うカットに近くの席で小さな悲鳴があがったのがとてもしっくりきた。なぜならアキ映画は、とりわけ本作がその続…

ぼくは君たちを憎まないことにした

パリ同時多発テロ事件で妻を殺されたアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)が「ぼくは君たちを憎まないことにした」(Vous n'aurez pas ma haine…君たちはぼくの憎しみを得られない)と世界に宣言する前の、後のリアルが丁寧に描かれていた。通行止め…

蟻の王

ブライバンティ(ルイジ・ロ・カーショ)いわくの「子どもでも書けるような文」を手がける、彼にとって当初全く違う世界の住人だった記者エンニオ(エリオ・ジェルマーノ)こそが「味方」だったというのが面白い。後年の裁判時に行われたデモでの演説でブラ…

理想郷

意を決したアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)が飲み屋で隣人兄弟と話をしようとする、自分の意見を言い、それに対し「君は何をする」のか聞こうとする(彼は何の教師だったのだろうか?)、兄のシャンが突如雄弁に自らの立場と心境を語る、この場面には見…

私がやりました

マドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)とポーリーヌ(レベッカ・マルデール)の女二人が男達の間抜けなオフィスへ乗り込んで芝居をうつあたりから映画はぐんと面白くなる。それまで自説を滔々と、嬉々として語っていた判事(ファブリス・ルキーニ)が、…

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

私にとって「ボスがいる、何をして食べているかよく分からない男達の映画」とはギャング映画だから、それに当てはまるこれもそう見た。面白かったけれど、主人公アーネストを演じるディカプリオのバカ面を見なきゃならない時間がいくら何でも長すぎて苦痛だ…

ペルシアン・バージョン

東京国際映画祭にて観賞。2023年アメリカ、マリアム・ケシャヴァルズ監督作品。冒頭、主人公レイラ(レイラ・モハマディ)が『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のヘドウィグ(を日常的に演じている男性)とまぐわいながらこちらに向かって語りかけて…

ライ麦のツノ

東京国際映画祭にて観賞。2023年スペイン/ポルトガル/ベルギー、ハイオネ・カンボルダ監督作品。出産の場にいる四人の女の顔を順に丁寧に映していくオープニング。父親と思われる男性も入って来るが幼い息子と共に姿を消すのがその後の展開を予告している…

タタミ

東京国際映画祭にて観賞。2023年ジョージア/アメリカ、ザル・アミール、ガイ・ナッティヴ監督作品。冒頭、他国の選手との会話でレイラ(アリエンヌ・マンディ)は自身が送っているのは「異常な生活」だと言う。300グラムを20分で減らし躊躇なくヒジャブを剥…

Totem

東京国際映画祭にて観賞。2023年メキシコ/デンマーク/フランス、リラ・アヴィレス監督作品。母と娘がはしゃいでいると外から「公共のトイレなんだから」と声をかけられるオープニングにうちじゃないのかと思い、タイトル後の続きになるほどこれは7歳のソル…

巻く

コリアン・シネマ・ウィーク2023にて観賞、2021年クァク・ミンスン監督作品。ドラマ『ムービング』であっと驚く役どころだったシム・ダルギ演じるジュリは大学を中退し25歳で無職、「私が保証金の3分の1は出した」部屋に一人、ゲームと出前三昧で暮らしてい…

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?

モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)の自宅に夫ジル(グレゴリー・ガドゥボア)が戻って来るオープニングに、もし私が暴行されたと警察から連絡を受けたらパートナーはこんなに落ち着いていない、すっ飛んでくるだろうなどと違和感を覚えるが(尤も…

ザ・クリエイター 創造者

冒頭に出る「『ニルマータ』とはAIが崇拝する彼らの創造者」云々との文に、AIにとっての崇拝とは何だろうと思うも、見ているうちにこの映画には彼らの宗教の誕生が描かれているようだと分かってくる(結果的にあれは世襲制…になるのだろうか)。ともあれマヤ…

シック・オブ・マイセルフ

冒頭シグネ(クリスティン・クヤトゥ・ソープ)はことあるごとに「トーマス(エイリック・セザー)にさせられたこと」を思い返している。全く優しくない、私なら一日で別れてしまうような彼氏だけど、話がうまくいくにつれ「役に立つ」ようになってくる。マ…

毒親

コリアン・シネマ・ウィーク2023にて観賞、2023年キム・スイン監督作品。「毒親」という言葉が日本で広く知られるようになったのはいつ頃だろうか。本作によると韓国では日本ほど一般的ではないようで、女子高校生のユリ(カン・アンナ)は「インターネット…

配信犯罪

話はテレビ局に求職中の青年ドンジュ(パク・ソンホ)がガールフレンドのスジン(キム・ヒジョン)の誕生日に彼女と連絡が取れなくなるのに始まる。友人から違法配信動画のリンクを受け取っていたことがばれたせいらしいが、冒頭よりドンジュの、友人らの行…

私には「入所者もそうでない者も同じ」という演技を磯村勇斗だけがしているように見えた。彼演じる「人じゃないものは要らない」と信じるさとくんこそが彼がそう見ている存在と同じだという含蓄ある要素を、主役の洋子(宮沢りえ)との対話などが覆い隠して…

シアター・キャンプ

「永遠の友情を見つけに来て、ニューヨークからたった4時間」(最後に皆で歌うCamp Isn't Homeの歌詞より)…4時間とは遠いな、でもアメリカは広いからなと思ったけれど、そういうことじゃないのかもしれない。二人の父親に育てられているデヴォンがステージ…

BTSの曲が使われたアメリカ映画

▼『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!(Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem/2023)』を見ていたら、タートルズの一人ドナテロの着メロがButterだった。ファンという設定なのかなと思っていたら、後半milkingの最中に彼が「やり…

ハント

「ぼくらの税金で買った銃をぼくらに向けるのか」とはイ・ジョンジェがブレイクしたという、光州民主化運動を描くために作られたドラマ『砂時計』(1994)の名台詞だが、この映画は何百人もが殺された光州民主化運動の回想シーンにおいて死体しか映さない。…

ルシアの祈り メスキートの木の奇跡

ラテンアメリカ・カリブ海グループ映画祭にて観賞。2019年メキシコ、アナ・ラウラ・カルデロン監督作品。映画の終わりに「長いあいだ差別を受けアイデンティティのために闘い続けるヨレメ族はじめ先住民の人々に捧げる」。主人公の少女ルシアの祖父母のセリ…

ダンサー イン Paris

主人公エリーズ(マリオン・バルボー)の筋肉に見惚れてしまう腕に始まる冒頭からしばらく、ダンサー同士で衣裳を留め合ったり柔軟運動をしたりという、パリ・オペラ座バレエの『ラ・バヤデール』上演前の裏側、いわば現実が描写される。ボーイフレンドの「…

PIGGY ピギー

『ファルコン・レイク』ほどじゃないけれど、宣伝から予想し得ない内容だった。夜中3時の警察署でコーヒーを前に嗚咽するサラ(ラウラ・ガラン)が心の内を吐き出そうとするのを、娘を追い込みコントロールすることでその行く道を潰してしまっている母親(カ…

ロスト・キング 500年越しの運命

スティーヴ・クーガンの関わる映画に外れなし、スティーヴン・フリアーズとの組み合わせなら尚のことと思っているので初日に観賞。当初プロデュース兼共同脚本兼、サリー・ホーキンス演じる主人公フィリッパ・ラングレーの「背景」的な役かと思いきや重要な…

ペパーミント・キャンディー/グリーンフィッシュ

特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」にて、滑り込みで二作を観賞。 ▼久しぶりに見た『ペパーミント・キャンディー』(1999)は大傑作だった。チェ・ジョンヨルの『グローリーデイ』(2015)を見た時、これは韓国の男性は美しく生まれるがみな汚…

ベネチアの亡霊

物語の舞台は原作『ハロウィーン・パーティ』の60年代イングランドの「どこにでもある村」と異なり1947年のベネチア。最後に舟で発つのは、第二次世界大戦によってとりわけ大きな傷を負った者達である。ポアロ(ケネス・ブラナー)は冒頭、原作では顔を合わ…