難民映画祭のオンライン上映にて観賞。原題Peace by Chocolate、2021年カナダ、ジョナサン・カイザー監督作品。
「実話に基づく」映画はシリア内戦の爆撃映像をオープニングに、レバノンの難民キャンプを経て第三国定住によりカナダへ移動した一家の困難と「奇跡」の道のりを描く。受け入れ国の空港への到着から始まるこのような映画は少ない。30年に渡り50人の従業員と共に操業してきたチョコレート工場を失った父イッサム(イッサム)はチョコレートが作りたい、息子テレク(アイハム・アブ・アンマー)は中断せざるを得なかった医学の勉強を続けて医者になりたい、要するに「以前と同じことをしたい」のだが容易にいかない。利子を禁じているムスリムがローンを使わないのは知っていたけれど、妹のみ当初カナダに来られない理由としてビザの申請に夫の許可がいるから(その夫は爆撃で殺され確認が取れないから)というのは初めて聞いた。
知人も多いトロントを期待していたのに受け入れ先のアンティゴニッシュが寒すぎるは田舎すぎるはのテレクのショックと落胆に始まるのがいい。日本に暮らす外国人の家族にもままある子どもが通訳の役目を果たすことになるという問題の内実も少々異なっており、イッサムが「お前なしでは字も読めない」と打ち明ける背景には国や家族の全てがある。テレクが地域で唯一のアラブ系外科医の助けで大学への編入を目指して各所でスピーチをして回るくだりにも、そもそもこのようなスピーチをせずに済むならばその方がいいのだと思わされる。難民としてしか見られないことにむなしさや憤りを感じる時もあれば、「工場は爆破された、義弟は爆撃で殺された、友人は拉致されて殺された」と主張せずにはおれない時もある。こういった、実際あるに違いないけれどあまり見ない類の描写の数々は見応えがあった。そしてあのチョコレートを食べてみたくてしょうがなくなった。