映画

グランツーリスモ

ブロムカンプの映画ってこんなにテンポがよかったっけと驚いてしまった(振り返るとそれは「時間がないので」と言いつつ噺をはしょるのでなくいつもより早口で済ませる落語家…実際にあった話…のようなものでテンポじゃなくスピードの問題なのかもしれないけ…

熊は、いない

単なる街角が「映画」になってゆく見事なオープニングに、それにしても「めくるめく」すぎやしないかと訝しんでいたら、それはパナヒ演じるパナヒがイラン国内の国境近くの村からリモートで撮影している映画なのだった。始めこそ「パナヒが紡ぎたい物語の具…

6月0日 アイヒマンが処刑された日

1961年のイスラエル。父親と交換した靴を履くことはできるが炉に入れる程まだ小さな少年ダヴィッド(折角の靴は確認されることもなく炉の掃除で恐らく汚れてしまう)はアイヒマンのことを知らずクラスで浮いている。「アラブ系だから差別されていると思って…

ファルコン・レイク

オープニング、ケベックの避暑地に向かう車内で幼い弟ティティを愛おしむふうな目つき、到着してベッドの上下になど全くこだわらない様子から、主人公バスティアン(ジョゼフ・アンジェル)は不満がない、というより欲望がない、何というかまっさらな存在に…

マルコム 爆笑科学少年/愚直な殺人者

特集上映「サム・フリークス Vol.24」にて二作を観賞。いつも組み合わせが素晴らしいけれど、今回はとりわけ、これまでになく、有機的に絡んでいるように感じられた。 『愚直な殺人者』(1982年スウェーデン、ハンス・アルフレッドソン監督)の主役、「知恵…

復讐の記憶

80代のハン・ピルジュ(イ・ソンミン)が自らに刻んだ文字を目にした少女が中国語でしょ?その母親が習ってるんです、これからは中国語だからというようなことを言う場面に、今の韓国では漢字といえば中国なのかと思うわけだけど、そもそも20代のパク・イン…

あしたの少女

大手通信会社のコールセンターの目的は顧客の解約を阻止すること。現場実習生として働き始めた高校生のソヒ(キム・シウン)が客に罵倒される冒頭から、なぜこの二者が争わねばならないのかという疑問、その異様さが浮かび上がってくる。以降こんな映画は初…

エリザベート 1878

随所にこの映画の何たるかが表れている…とは随所が映画そのものなんだから奇妙な物言いだけど、そう思いつつ見終わった。エンドクレジットでエリザベートを演じたヴィッキー・クリープスがエグゼクティブ・プロデューサーでもあったと確認し彼女が踊るのを目…

マリア・ブラウンの結婚

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選にて観賞。映画の終わり近く、ハンナ・シグラ演じるマリアが室内を走り回る様にこれは愛(「これから知る」相手への愛、つまりそういう類の愛)のための家なのだとしみじみ思うが、ファスビンダーの映画で中心に…

シモーヌ フランスに最も愛された政治家

映画は幼い頃の記憶に始まる。遅くまで外で遊ぶ姉や兄に対しもう少し本を読みたいと言うシモーヌにあと10分ねと返す母イヴォンヌ(エロディ・ブシェーズ)へ甘やかしすぎだと父が声を掛ける。彼女は家庭内のいわば少数派である。しかし時を経てユダヤ人の一…

バービー

全くケンなんて作るから、いや違う、「決して変化しない」関係なんて作るからこんなことになる。Netflixのドキュメンタリー『ボクらを作ったオモチャたち(2017/The Toys That Made Us)』ではバービーは結婚できない、してしまうと主婦の苦労を背負わなけ…

ソウルに帰る

初見演奏とは子ども時分の私にとっては(例えばピアノのレッスンにおいてのそれは)スリルであった。この映画のフレディ(パク・ジミン)にとって冒頭のそれが旅先の韓国人を使っての自分にアドバンテージがあるお楽しみだったのが、映画の終わり、形にして…

658km、陽子の旅

ラックの上に置かれた小さなテレビの中の、神宮外苑のいちょう並木の紅葉を見に観光客が外国からも訪れているというニュースは、仕事も買い物も家から出ずに済ませている陽子(菊地凛子)との対比、そんな彼女が旅に出ることになる予兆なんだろう(ちなみに…

インスペクション ここで生きる

訓練所行きのバスの中でイキった黒人男が皆に聞かせるように口にする「街で殺しても儲けにならないが軍人として殺せば稼ぎになる」と、主人公エリス・フレンチ(ジェレミー・ポープ)が後にある人物だけに打ち明ける「外にいれば野垂れ死にするか殺されるか…

裸足になって

声を失い無言で横たわる娘の口元に母が耳を寄せ「何か話して」と語りかける画があまりに鮮烈で、ここがどん底なのかと思う。メッセージは口から耳へ伝えられるものだというところで膠着しているならそれを振り切る必要があり、娘はその後、これまでとは異な…

不安は魂を食いつくす

開催中のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選にて、好きな映画をスクリーンで初めて見た覚書。雨の日に出会った二人は雨の日に結婚する。話のできる友だちとセックスし結婚するなんてすごいロマンだ。それが世界は気に入らない。アリ(エル・エディ…

世界のはしっこ、小さな教室

少なくともドキュメンタリー「映画」(劇場公開されるものでも、配信のみのものでも)では昨今珍しくなった、被写体の誰でもない声のナレーションが、都会から赴任地へ向かうサンドリーヌに被せて「かの地もブルキナファソだから」と語るのに勝手にそんなこ…

バーヌ

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオンライン上映にて観賞。2022年アゼルバイジャン・イタリア・フランス・イラン、ターミナ・ラファエラ監督作品。殉国者は死せず、国家に分断なし。奪還もしくは死…奪い返した地に帰る人々の喜びの舞の脇で抱き合う、戦地に戻…

シックス・ウィークス

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオンライン上映にて観賞。2022年ハンガリー、ノエミ・ヴェロニカ・サコニー監督作品。養子縁組が成立しても出産から6週間は実母が子を取り戻すことができるという法のもとでの、出産した高校生のその日々を描く。冒頭ゾフィ(…

あなたを探し求めて

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオンライン上映にて観賞、2023年イギリス作品。映像作家であり障害者のエラ・グレンディニングが自分と同じ体の人を探す6年間の旅の記録。「その病院では初めてのケース」「珍しくて統計すら出ていない」「私は自分のfreakishn…

助産師たち

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭のオンライン上映にて観賞。2023年フランス、レア・フェネール監督作品。助産の仕事の現在を新人のソフィア(カディジャ・クヤテ)とルイーズ(エロイーズ・ジャンジョー)の目を通じて描く。このくそ忙しいのに新人の訓練なんか…

ヴィーナス・エフェクト

レインボー・リール東京にて観賞、2021年デンマーク、アナ・エマ・ハウデル監督作品。両親が営む農園に勤める20代の女性の人生が、ある女性との出会いによって変わっていくさまを描く。明るい日光、あふれる緑、鳥の声、そよぐ風、多くの人に素晴らしく映る…

孔雀

レインボー・リール東京にて観賞。2022年韓国、ピョン・ソンビン監督作品。あるトランスジェンダー女性の帰省と世界との調和を描く。ミョン(ヘジュン)は性適合手術の費用1000万ウォンを稼ごうとワッキングダンスの大会に出場するが、「自分の色がない」と…

サントメール ある被告

「なぜウィトゲンシュタインを?アフリカの女性が20世紀始めの哲学だなんて、もっと身近なテーマにすればいいのに」には、哲学科を当たり前のように卒業した私としては日本で日本人として生きるって何て呑気なことだろうと思わずにいられなかった。尤もこの…

1秒先の彼

リメイク話を聞いた時に気付いて然るべきだった、これは岡田将生を生き人形にするための企画なんだと。バスの窓からの画で「美」に興味のない私にも衝撃が走った。加えて「死んでるんですか!?」というオリジナルではあり得なかった突っ込みから死体コメデ…

ひとつの青い花

EUフィルムデーズにて観賞。2021年クロアチア・セルビア、ズリンコ・オグレスタ監督作品。工場勤続20年の節目を迎えるミリヤーナが一緒に住む娘、たまに会う母と共に過ごす二日間を描く。見ている間も見終わった直後も、こんな映画いらないじゃんと思ってい…

カルメン

EUフィルムデーズにて観賞。2022年マルタ・カナダ、ヴァレリー・ブハジャール監督作品。80年代のマルタ島の教会を舞台に、牧師である兄の家政婦として生きてきたカルメンの独り立ちを描く。田嶋陽子の『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』にジョン・セイル…

模範社員

EUフィルムデーズにて観賞。2021年ベルギー、ヴェロニク・ジャダン監督作品。清掃商品を扱う会社に17年勤める40代のイネスとインターンで入ったばかりのメロディの朝から晩までを描く。今年公開された『アシスタント』(2019)の、システムの一部として差別…

マッチ棒くずし

EUフィルムデーズにて観賞。2021年ルーマニア・チェコ、エマヌエル・プルヴゥ監督作品。とある一家の娘マグダが父クリスティにもらったネックレスをボーイフレンドのユリアンと訪ねている病院で少女にあげてしまう…のに話は始まる。終盤マグダが言う「パパは…

To Leslie トゥ・レスリー

冒頭よりレスリー(アンドレア・ライズボロー)は誰にも目を合わせてもらえない。宝くじに高額当選するも6年後には無一文になってしまったアルコール依存症の彼女が金を貸してよ、遊ぼうよ、となりふり構わず男達に訴えても皆、目を逸らす。そんな彼女が自分…