模範社員


EUフィルムデーズにて観賞。2021年ベルギー、ヴェロニク・ジャダン監督作品。清掃商品を扱う会社に17年勤める40代のイネスとインターンで入ったばかりのメロディの朝から晩までを描く。

今年公開された『アシスタント』(2019)の、システムの一部として差別に加担するしか生存の道がないという内容を考えると、場内が爆笑の渦だった(私はそこまでは笑えなかった)このお掃除コメディは、それこそ『9時から5時まで』(1980)の、舞台が現代であるという意味だけでの現代版と言ってもいいかもしれない(結末は全くもって違うけども)。

イネスは長年勤務していながらこの日初めて女ゆえ昇給を阻まれていることを知る(「このピンクの線を見て、これが私」)。元より彼女は政治に興味もなく、メロディに対し「アフリカのどこから来たの?」などと尋ねて「ブリュッセル出身です」と返される。性暴力をふるわれたと聞くや「抵抗しなかったの?」。「嫌だった」との答えに「そんな、それじゃあ嫌だと思う度に…」と初めて自分達が金銭面以外でも虐げられていることに気付き、隣の手に手を重ねる。

(以下「ネタバレ」しています)

ありがたく思えとちんこを出した男を意図的でないにせよ殺してしまった後から、とんでもない差別馬鹿野郎の言動が急に鬱陶しく感じられなくなり面白かった(だってこっちは人、殺してるんだからね!/そこまで行かないと差別に太刀打ちできないと言えるけれども)。更には色目を使ってくる男の刑事の馬鹿さによって助かる。妊婦の刑事の最後の言葉「あなたたちを疑ってるけど私は管轄外だから助かるね」にはちょっとした仲間の、目配せのニュアンスがあった。