インスペクション ここで生きる


訓練所行きのバスの中でイキった黒人男が皆に聞かせるように口にする「街で殺しても儲けにならないが軍人として殺せば稼ぎになる」と、主人公エリス・フレンチ(ジェレミー・ポープ)が後にある人物だけに打ち明ける「外にいれば野垂れ死にするか殺されるかだが海兵隊員として死ねば英雄になれる」は表裏一体である。しかも彼は新兵として仲間と過ごすうちに他のもの、端的に言って自尊心を得ることができた。戦争とはそうした矛盾を含む最たるものであり、そういう意味で私にはこれはやはり戦争映画だった(例えば『戦争は女の顔をしていない』で形にされたのもそういうものでしょう)。

ロウズ教官(ボキーム・ウッドバイン)が語る戦争という「世界」とフレンチという「私」がどちらも膨らみ切って拮抗しているように私には見えた。でも共存する、そこに湿り気が生まれる。こんなに湿っている、湿りながら笑っている映画ってない。教官が彼に格別目を掛けているのは表向きには「海兵隊の何たるかは己を知って向上するところにある、お前は今日の訓練で限界を超えた、誇っていい」とのことだが、戦争においては彼のような人間こそそこに向かうと分かっているのか。同性愛者についての当時の勝手な規定につき「ゲイを排除したら軍は成り立たない」と明かすロサレス教官(ラウル・カスティーロ)とは足場が違う。

男達が誘うのは妄想だが殴られるのは真実。ちんこをたてるどころかしごきまくっても「皆」がやってるなら嫌がらせにならないという馬鹿馬鹿しさ。だいたい男らは、自分にちんこたてる相手に寛容になれよと思わずにはいられなかった(女はそれを強要されてるんだからという意味で)。お前ちんこたてたな!と蹴ることができてたらどんなにすっきりしただろうと正直思ってしまった(蹴りたいわけではない、そんなのありかよという意味で)。

訪ねて来たのが息子だと分かってもドアチェーンをしばらく外さない母親(ガブリエル・ユニオン)のカットで、冒頭から映画が彼女にも寄り添っていることが分かる。素晴らしきもの…例えば料理のいい匂いを備えていながら窓も映らない部屋、閉塞感の中に生きる彼女が最後には車を出て修了式に笑顔で出席する。しかし息子の「私」が生き延びているとは思わなかった、思いたくなかったのか。愛し合い求め合いながらも相手を受け入れられない、そういう結末に至る映画を最近またよく見る。今描かれる物語なんだろう。