不安は魂を食いつくす


開催中のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選にて、好きな映画をスクリーンで初めて見た覚書。雨の日に出会った二人は雨の日に結婚する。話のできる友だちとセックスし結婚するなんてすごいロマンだ。それが世界は気に入らない。アリ(エル・エディ・ベン・サラム)が物を売ってもらえないくだりは今の日本で外国人の留学生や労働者が「日本語しゃべれ」と文句をつけられる、そのまんまである(店員と客の立場が逆である場合が多いわけだけど)。

「二人で話をすれば、他の人はいらない」「他の人なしでやっていけるものかしら」。昔…この映画を初めて見た学生当時は私も他の人はいらないと思っていたが(好きな人がどうというわけじゃなくそういう状態がいいと思っていた)今はそう思わない。でもここでの「他の人」は今の私が繋がらなきゃと思うような存在とは全く違う。続く娘夫婦の全く「話」なんてしていない一幕からも分かるが他の人たちは「話」をすることができず、目を合わせず皆で同じ方を向き同じものを攻撃することで生き延びているんである。ちなみに娘夫婦のこの一幕、殴ることができるであろうからという理由でのみ女が男の言うことを聞いているという、筋の通った、あほくさい情緒のないところがファスビンダーである。私はあれを愛する。

「旅行から帰って来ると」彼らにとっては魔法のように…その実はそれどころじゃなく現金な理由で、大型店舗に客を取られた小売店のおやじや息子から預かった荷物の重さを持て余している隣人、娘の預け先に困っている息子などが次々と接近してくる。こうしてちんこや筋肉、労働力といったものと引き換えに二人は周囲に受け入れられる。今日見るとこの物語は、生きてるだけじゃ価値がないとされる社会へのアンチテーゼにも感じられた。そんな中、エミは彼の体を同僚に触らせアリは彼女の金をギャンブルで使い込む。序盤で二人の一週間の賃金を合わせて私たち大金持ちね、天国を少し買いましょうといっていたのが切なく思い出される。あの曲での「私たち、お互いもっと優しくならなくちゃ」には涙が出てしまった。