あなたのために生まれてきた


イタリア映画祭にて観賞、2023年ファビオ・モッロ監督作品。

冒頭呼び出されて裁判所に向かう自転車でふと片手を離してみる、ルカ(ピエルルイージ・ジガンテ)にとって子を持ち家族になることは自由になることと同等なのだと分かる。以降何度にも分けて挿入される回想シーンで、同性愛者の彼にとって手を離し空を飛ぶこと…「火星へ行くこと」にどんな意味があるかが分かるが、終盤そのニュースに嗚咽する姿に、判事が思い返す講義の「法は大衆ではなく個人のために」から借りて言うなら、大衆として扱われて不満のない者は「火星へ行くだなんて昔は誰も思わなかった、人は進化する」なんて希望を抱かず済んでいるのだとつくづく思わされた(その逆が、『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』で全ての権力を握っている教皇ピウス6世が言う「私は不変で、世界の方が進歩によって破滅する」だろう)。

何番目かの妻の妊娠がパーティで盛大に祝われている(イタリア映画でベビーシャワーを見たのは初めてかも)、いわばマジョリティの特権を享受しまくっているルカの兄が、里親制度の特例で一か月暮らせることになったアルバと共に別荘にひっこんだ弟の元に一番にやってくる、いや続く皆がアルバを愛し世話してくれる。自分で自分を抱きしめながら目覚めるルカも一人ではなかったと分かる。その後には急ぎの用で訪れた弁護士のテレサ(テレーザ・サポナンジェロ)に「(アルバのために)泊まってくれ」なんて言えるようになる。しかし翌朝には世論を動かそうとする彼女と「アルバを旗印にしたくない」と反対するルカ、支援者と当事者の間のちょっとした分断が描かれ、一人は一人に違いないということも示される。それはルカと恋人のやりとり、関係にも表れている。

「どんな母親?」「産んで捨てていった」「病院じゃなく道に捨てる親だっている、宗教上の理由で中絶を選べない人だって」「少なくとも勇敢だったってことね」。例えば序盤のこんなやりとりにこの映画の繊細さが表れている。生まれた子にアルバと名付けた看護師の彼女やテレサ、「時間の無駄だった、次からは普通の家族を呼ぶ」「法を作ることじゃなく守らせることが私の仕事」と言う判事(これには『コール・ジェーン』の主人公ジョイの弁護士の夫が法を守る善人ながら妻のことを全く救えなかったのを思い出した)など女達は皆アルバに家族ができることを願っているが、仕事の範疇というものがあるため事が運ばない。ルカとアルバは最初の例になることができたが、映画の終わりの「本当の」アルバの世界一ってくらいの笑顔に、私達が私達の法を変えていくことが一番大事なんだというメッセージを受け取った。