マイ・スイート・ハニー


「ユ・ヘジン初のラブストーリー」との宣伝文句や予告から想像していたよりずっとよかった、かなりいい線のロマコメ。上司の性暴力をイ・イルヨン(キム・ヒソン)の暴力で、食事の席でのもめ事を彼女の娘チンジュの暴力で半ばコミカルに終わらせる(「会社」や「家」の内でおさめる)韓国映画・ドラマの例のやり方は非難したいけども。作中最後の暴力がユ・ヘジン演じるチャ・チホの、ある関係をずっと続けてきた兄ソクホ(チャ・インピョ)への拳、それから自分で自分を叩く姿だというのは正しく切ない。
性行為に際して同意を取らないからこういうことに、というドライブインシアターでの「笑える」一幕も古く感じた(見ている方はどちらも「その気」があることは分かっているわけだけども)。まあまさに「同意を取らないからこういうことに」という展開なわけだけども。

初顔合わせの場面、見るからに怖そうな男の傍らで子どもを怯えさせまいと頑張る男と堂々と注意する女、というのは今時もう普通なのであって、この映画の面白いのはひとえにチャ・チホのキャラクターとその変化。女子大学生のチンジュは「この人へん」と言うけれど、およそ他人にはそう判断されてしまいそうな、相手を指で指す、大きな音を立てて車のドアを閉める、返された財布の札を目の前で数える、「今はあなたが『2』です、チキン屋がつぶれたから」、兄いわく「頭をぶって『病気』になった」男の人となりとその変化をユ・ヘジンが凄みさえもって演じる。
母のイルソンは「彼が変じゃないのは、『前の男と違う』のは、年を重ねた私には分かる」と言うけれど、これはまずもってやはり気の合う二人が運よく巡り合う物語である。家族という壁に阻まれても、二人は自分の気持ちが指し示す方へ進み続ける。ロケ地に行ってみたくなるラストシーンには、趣は違えど(家族でなく)主人公自身がキンパ屋を経営する映画が年に二本も日本公開されるとは珍しいなと思った。