孔雀


レインボー・リール東京にて観賞。2022年韓国、ピョン・ソンビン監督作品。あるトランスジェンダー女性の帰省と世界との調和を描く。

ミョン(ヘジュン)は性適合手術の費用1000万ウォンを稼ごうとワッキングダンスの大会に出場するが、「自分の色がない」と評され負けてしまう。ダンスには無知だけど、追い詰められているかのような目つきで踊る彼女には自分らしさを出す余裕などないように見える。後に彼女の年齢が分かるが、「手術できなかったら軍隊に行くの?」だし、実家とは断絶している。周囲には彼女を励まし慰める仲間がいるが、そちらに心を砕く余裕もない(それはそういうものだと思う)。

この映画の面白いのは、人じゃないものの声を聞くという要素。お金のためにと出向いた店での占いは都会の隙間のそれとも言えるが、故郷に帰ると亡き父が、祖父が、かつては自分も携わっていた農楽がまず、地の声を聞くものだった。ミョンもそこへ還ってみると、「偽りの気持ちで法要の踊りを踊ってはいけない」との言葉がさすがの長老の「人を拒絶するのは人だけ」とはよく言ったもので、顔を川の水に、素足を土につけるうち、世界に受け入れられ解放されていく。そうすると人との繋がりにも発展がある。子どもを始め周囲の人々を守る強さも発揮される。

架空の土地だという田舎の差別をきっちり描写しつつも風通しはよく、決してどん詰まりにはならないであろう空気が流れているのも特徴で、「あなたのおかげで死なずに済んだ」という人生を描いておきながらそう映るのは、作り手の目線の優しさゆえだろう。何度か場内に起きた笑いは丁度いい波のようだと思った。