奈落のマイホーム


コメディに始まるが主題が展開するにつれシリアスになっていく韓国映画というのは結構あり、作り手の心情は分かるもののいまいち釈然としないことも多いけど、本作が本格的に笑わせにくる(演出が明らかにそうなる)のはアパートがシンクホールに落ちてから。このディザスターコメディぶりが上手くいっており、まだこんな「見たことない」スタイルの映画があるんだと面白かった。

世界各地で発生しているシンクホールの恐怖に加え、例えばドラマ『ブラックドッグ』(2019)の主人公は非正規だから結婚できないと言っていたものだけど、こちらでは賃貸ワンルームだから好きな人に告白すらできない、家が買えないうちにも(作中の「現在」では)不動産価格が日々値上がりしている、会社のインターンは社員と同列に扱われない、高校生が目的もなくただただ節約してお金を貯めている、といった韓国の諸問題が並走している。

舞台も時代も違う『ミナリ』にも「家長の椅子」が存在していたものだけど、本作の主人公ドンウォン(キム・ソンギュン)も地方から出てきて職場から遠い賃貸住宅で11年辛抱したのちローンで手に入れた家にまず自分の椅子をしつらえる。キム代理(イ・グァンス)が集めた金を受け取って自分で買うが妻のヨンイ(クォン・ソヒョン)には贈られたことにし、息子も座らせず彼女に「そこに寝てれば、一生」と呆れられる。しかし引っ越し祝いで酔ったインターンのウンジュ(キム・ヘジュン)に座られても何も言えない。

そんなドンウォンがその椅子をまさに投げうってマンス(チャ・スンウォン)を救う。冒頭「おれは悪くない、お前こそ謝れ」と言い合って(しかし息子に指摘されるとこれは喧嘩じゃないと言い張って)出会った二人である。その後の「穴があいてむしろよかった、息子の寝顔を久々に見た」「ほかの家族が本当に心配で」といったやりとりに表れている二人の変化が本作の大きな柱と言えよう。そうしたことを描くためか「家」に残るのは男ばかり、女がほぼいないのは見ていてやはりつまらないけれど。

(以下「ネタバレ」しています)

ドンウォンの息子への「ママの待ってる『家』へ帰ろう」から、写真からして結婚したらしきとある二人がバンで移動生活をしているという「オチ」まで、愛する人がいるところこそ「家」なのだというところに話が落ち着くのには、そうはいっても家を手にする選択肢は欲しいよなと思ってしまった。