映画

孔雀

レインボー・リール東京にて観賞。2022年韓国、ピョン・ソンビン監督作品。あるトランスジェンダー女性の帰省と世界との調和を描く。ミョン(ヘジュン)は性適合手術の費用1000万ウォンを稼ごうとワッキングダンスの大会に出場するが、「自分の色がない」と…

サントメール ある被告

「なぜウィトゲンシュタインを?アフリカの女性が20世紀始めの哲学だなんて、もっと身近なテーマにすればいいのに」には、哲学科を当たり前のように卒業した私としては日本で日本人として生きるって何て呑気なことだろうと思わずにいられなかった。尤もこの…

1秒先の彼

リメイク話を聞いた時に気付いて然るべきだった、これは岡田将生を生き人形にするための企画なんだと。バスの窓からの画で「美」に興味のない私にも衝撃が走った。加えて「死んでるんですか!?」というオリジナルではあり得なかった突っ込みから死体コメデ…

ひとつの青い花

EUフィルムデーズにて観賞。2021年クロアチア・セルビア、ズリンコ・オグレスタ監督作品。工場勤続20年の節目を迎えるミリヤーナが一緒に住む娘、たまに会う母と共に過ごす二日間を描く。見ている間も見終わった直後も、こんな映画いらないじゃんと思ってい…

カルメン

EUフィルムデーズにて観賞。2022年マルタ・カナダ、ヴァレリー・ブハジャール監督作品。80年代のマルタ島の教会を舞台に、牧師である兄の家政婦として生きてきたカルメンの独り立ちを描く。田嶋陽子の『新版 ヒロインは、なぜ殺されるのか』にジョン・セイル…

模範社員

EUフィルムデーズにて観賞。2021年ベルギー、ヴェロニク・ジャダン監督作品。清掃商品を扱う会社に17年勤める40代のイネスとインターンで入ったばかりのメロディの朝から晩までを描く。今年公開された『アシスタント』(2019)の、システムの一部として差別…

マッチ棒くずし

EUフィルムデーズにて観賞。2021年ルーマニア・チェコ、エマヌエル・プルヴゥ監督作品。とある一家の娘マグダが父クリスティにもらったネックレスをボーイフレンドのユリアンと訪ねている病院で少女にあげてしまう…のに話は始まる。終盤マグダが言う「パパは…

To Leslie トゥ・レスリー

冒頭よりレスリー(アンドレア・ライズボロー)は誰にも目を合わせてもらえない。宝くじに高額当選するも6年後には無一文になってしまったアルコール依存症の彼女が金を貸してよ、遊ぼうよ、となりふり構わず男達に訴えても皆、目を逸らす。そんな彼女が自分…

苦い涙

ファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』と同じく「優しくすると立場が弱くなる」という基本の確認に始まる本作は、オリジナルが男ならではのやり方で自分を支配した夫と別れてやったと語るペトラがハンナ・シグラ演じるカーリンを見るや権力者…

ムーン、66の問い

EUフィルムデーズにて観賞、2021年ギリシャ・フランス、ジャクリン・レンジュ監督作品。同性愛者であることを隠して生きてきた男は多発性硬化症によって体の自由を失いクローゼットのより奥に閉じ込められた。疎遠だった娘が帰国し父との苦しいダンスを通し…

探偵マーロウ

映画はヒトラーが独ソのポーランド占領について話した内容のニュースに始まり(このような映画を見るといまだに『マッチ工場の少女』の作中初の声が天安門事件のニュースだったことを思い出す)ナチスによる焚書の撮影所での再現に終わる。これにより作中の…

Rodeo ロデオ

話は主人公ジュリア(ジュリー・ルドリュー)がバイクを盗まれるのに始まる。彼女はポロシャツを着るような中年男性が売りに出しているバイクを盗む。後にまた盗まれると(今度は自分が乗るためにではないが)別の「金持ち」から盗む。弟に「200ユーロ出せば…

テノール! 人生はハーモニー

「置かれた場所」から抜け出すのには…主人公アントワーヌ(MB14)のような境遇の側にのみ…こんなにも苦しみが伴うという話である。その苦しみは境界の向こうの人々ゆえでもあるがこちら側の仲間ゆえでもある。当初は自身もお高くとまってと馬鹿にしていたオ…

もうひとつの楽園

アイルランド映画祭にて観賞。「アイルランドの長編映画を監督した初の女性」、ミュリエル・ボックスによる1959年作。夜の闇の銃撃、「あのことを頼む」と友に言い残し息を引き取る男。タイトル(This Other Eden)が出ると陽の中を駆ける馬の向こうに美しい…

恋するアナイス

EUフィルムデーズにて観賞、2021年フランス、シャルリーヌ・ブルジョワ=タケ監督作品。主人公が「望みを自覚する」のはここでは前提であり、冒頭よりしばらく、アナイス・ドゥムースティエ演じるアナイスに私たちはその一つのあり方、発露を見る。好きなも…

怪物

映画の序盤も序盤の、早織(安藤サクラ)の前で5年生の湊がペットボトルをぐじぐじやっている場面で不意に、例えば私が当事者である生理や妊娠の可能性につき、大ごとであると同時に大したことじゃない、その時々にどちらであるかを自分で決めることが大事な…

ウォーキング&トーキング/トーチソング・トリロジー

特集上映「サム・フリークス Vol.23」にて二本立てを観賞。いつもそうだけど、かなり面白い組み合わせだった。 ▼『ウォーキング&トーキング』(1996年アメリカ、ニコール・ホロフセナー監督)で描かれるのは少女時代からの親友二人を中心とした人間関係の進…

ウーマン・トーキング

話し合いから退いたスカーフェイス(フランシス・マクドーマンド)の「ゆるさなければ村からも天国からも追放される」で彼女たちのメノナイト信仰を少し覗き見ることができる。「今までゆるしてきたのに何故今回はそうしないのか」、果たしてこれまでのゆる…

ぼくたちの哲学教室

ドキュメンタリーの舞台はベルファストのホーリークロス男子小学校。冒頭の登校時の光景で女性の教員が校内に入る時はフードを取るよう指導しているのを思えば何故だろうと見ていたんだけど、作中挿入されるちょっとした屋外の映像から、フードとはまず雨や…

aftersun/アフターサン

「ママとの電話で、どうして愛してるって言うの?」 「おばあちゃんやおじいちゃんには言うよね?」 「それは家族だから…」(以下少々「ネタバレ」しています)「11歳の誕生日」が存在しなかったことに憤慨した女性とは「別れた」けれど、今日、娘が同じ…似…

ソフト/クワイエット

6人の女が家を出る段になってふと、集団が形成され攻撃が行われ大騒ぎの末にこんなことになったけれど、世の被害者にしてみれば突然蹴られたり殴られたり殺されたり(あるいは「助かったり」)するわけで、この映画はその「間」を浮かび上がらせているんだな…

最後まで行く

こんなに力の入ったリメイク、見たことない。オリジナル(2014年韓国、キム・ソンフン監督)では部署の皆で仲良く悪事を働いていたのがこちらの工藤(岡田准一)はヤクザからの裏金を一人で受け取っているのに始まり誰が死んだんだっけ程度のキャラクターだ…

同じ下着を着るふたりの女

始めは昨年読んだ『母親になって後悔してる』を思い出しながら見ていた。あの本にこのスギョン(ヤン・マルボク)のような女性が出てきたわけでは全くないが、お腹を切った跡を意識している描写などからして、ここから出たのがこれ、といったような違和感を…

TAR ター

冒頭、ベルリンの自宅に帰ったター(ケイト・ブランシェット)はパートナーであるシャロン(ニーナ・ホス)の心拍数を薬と音楽とダンスで落ち着かせてベッドに入り、「移民」である娘ペトラがいじめられていることを聞き出し学校へ送って対処する。全てをコ…

アルマゲドン・タイム ある日々の肖像

公立学校、1980年のニューヨーク、クイーンズ、これからはorderに従うようにとの6年生の初授業で皆を笑わせたい、二人なら反抗できると仲良くなったポール(バンクス・レペタ)とジョニー(ジェイリン・ウェッブ)だが、ターケルトーブ先生の「背中にも目が…

MEMORY メモリー

少女が(後に砂漠のそれと分かる)絵を描いているのは父親に子どもらしく見せるよう言われているのかどうなのか判断しかねていたら、ただ描きたくて描いているのだった。その絵に標的が子どもだと知り衝撃を受けうなされる殺し屋アレックス(リーアム・ニー…

ウィ、シェフ!

映画が始まると暗い画面に波の音と風に布がはためく音、人によって脳裏に浮かぶものが違うはずだと思っていたら。話は「カティ・マリー」(オドレイ・ラミー)がレストランの設計図を脇に四苦八苦しているのに始まる。理想の場を「箱」から作ろうとしていた…

それでも私は生きていく

映画はサンドラ(レア・セドゥ)が大きく分厚い扉の向こうに一人暮らすゲオルグ(パスカル・グレゴリー)を訪ねるのに始まる。レイラ(フェイリア・ドゥリバ)から連絡があるかもと電話を手放さない父と、クレマン(メルヴィル・プポー)が何か言ってこない…

帰れない山

原作未読。「木のように自分を待っていてくれる友達ができるとは思わなかった」というオープニングに、人が人を待っているだなんてという不穏な気持ちと、いつの時にいつの時を振り返っているんだろうという疑問を抱きつつ見始め、それに囚われたまま見終わ…

キアラ

イタリア映画祭にて観賞、2022年イタリア・ベルギー、スザンナ・ニッキャレッリ監督作品。2020年の『ミス・マルクス』に続く伝記もの(その前作は未見)で、「女性の修道会のための会則を書いた最初の修道女」聖キアラの物語。「お前はわたしのものだ」と連…