2022-01-01から1年間の記事一覧

不都合な理想の夫婦

英国人のローリー(ジュード・ロウ)の母(アン・リード)いわく「今の女は疑い深い、私は疑ったことなんてなかった、死んだ夫を知り尽くしてたからね」。アメリカンガールのアリソン(キャリー・クーン)は母(ウェンディ・クルーソン)に「難しく考えすぎ…

とても素敵なこと 初恋のフェアリーテール/サマーズ・タウン

特集上映「サム・フリークス Vol.18」にて観賞。岡さんの前説によるとVol.10の「マリアンの友だち」「タイムズ・スクエア」に対応する二作とのことで、言われてみれば確かにそうだ。二人でいることが力になるって話。 ▼とても素敵なこと 初恋のフェアリーテ…

オライの決断

ドイツ映画祭で見逃したものをEUフィルムデーズにて観賞、2019年ドイツ、メフメト・アキフ・ビュユックアタライ監督作品。妻の携帯の留守番電話にイスラム教徒が口にすれば仮離婚となる「タラク」との言葉を勢い余って残してしまったことから、別居によりこ…

ホーホヴァルト村のマリオ

EUフィルムデーズにて観賞、2020年オーストリア・ベルギー、エフィ・ローメン監督作品。クィアの若者が生き延びようと必死にもがく物語。オフビートの数滴で(母親がふと、息子が盗んできたある人物のカトリックの喪のベールを被ってみる場面など)見ている…

帰らない日曜日

原題のMothering Sundayとはそうか、使用人が実家に帰るための休み、いわば藪入りのことかと見始めると、主人公「ジェーン・フェアチャイルド」(オデッサ・ヤング)は孤児院出身のため(「孤児に凝った名前なんてつけない」)帰る家が無いと分かる。メイド…

a-ha THE MOVIE

映画は控え室で三隅に散らばって過ごす現在のモートン、ポール、マグネの姿に始まり、作中では一切の会話なしにそのままステージへ。それぞれが語る内容は性格の違いなどではなく関係の淀みのようなものを示しており、でもバンド続けてるんだよね?と思いな…

メイド・イン・バングラデシュ

先月セウォル号沈没事故の起きた16日にエッセイ集「目の眩んだ者たちの国家」内のパク・ミンギュの文を改めて読み事故と事件は異なると心に刻んだものだけど、この映画のオープニングに描かれる、実際の出来事を元にした衣料品工場の火災についてもそう、ア…

私、あなた、彼、彼女/ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地

シャンタル・アケルマン映画祭にて観賞。▼「私、あなた、彼、彼女」(1974年ベルギー・フランス)はアケルマン演じる若い女性のとある道程を描く一篇。スクリーンの中の部屋に出現した女の「これが始まりだった」とのナレーションに何が始まったのかと見てい…

アイ・キャン・スピーク

アメリカ合衆国下院121号決議(日本軍従軍慰安婦謝罪要求決議)が採択された2007年の公聴会での証言を元に制作された2017年の作品が、日本でもようやくソフト化・配信で見られるようになったので観賞。「笑えて泣ける」見慣れたスタイルの韓国映画。 話は9級…

マイ・ニューヨーク・ダイアリー

話はジョアンナ(マーガレット・クアリー)の親友ジェニーが職場に導入された電子メールの使い方の馬鹿らしさを愚痴るのに始まるが、改めてこれが「インターネット」以前の物語であることを面白く感じた。誰かの書いたものには力があり、それは誰かに届く、…

キアラへ

イタリア映画祭2022にて観賞、ジョナス・カルピニャーノ脚本監督2021年作。冒頭キアラ(スワミー・ロートロ)を含む姉妹三人がソファで父親と何とはなしにふざける場面に、「チャンブラにて」(2017)にも少年ピオの、振り返ると多分生涯最後だったであろう…

パリ13区

終わってみれば瑞々しい二つの恋が交差しながら進んでいく物語であった。一つは一週間続いたセックスに始まり葬儀の日曜日の「愛してる」に至る恋。たまたまセックスした相手をあんなふうに好きになることってほぼ無いと経験から思うから、あの浮かれようが…

マリー・ミー

心は奈落に落ちながら体は舞台へせり上がってくるのに話は始まる。これはおかしいと気付いたキャット(ジェニファー・ロペス)は人の期待に応えておとぎ話をなぞるのはもうやめようと決意する。変わるならどこかへ飛ばなきゃ、でも着地点が欲しい、その先に…

ベルイマン島にて

まずはパートナーの男性の手による女性の表象を見るのは少々気味が悪い場合がある、ということが感じ取れる。ベルイマン「叫びとささやき」の女達が大写しになる場面の後日、クリス(ビッキー・クリープス)はトニー(ティム・ロス)の作品の上映会でスクリ…

アリス・ギイ短編集

「アメリカ映画史上の女性先駆者たち」特集にて観賞。レオン・ゴーモンが彼女の結婚に際し夫となるハーバート・ブラシェのアメリカ派遣を決めたことからフランスでのキャリアを捨て渡米するはめになったアリス・ギイが、数年後にニューヨークのゴーモンのス…

ハッチング 孵化

卵を世話して孵すのが何だというのか、妊娠したり変身したりするのに比べたら自分の体には何事もない、「外」の変化なんて怖くないと思いながら見ていたらそういう話ではなかった、このひねりが肝。一瞬で私の家をめちゃくちゃにした鳥に目覚めさせられ、あ…

ザット・シンキング・フィーリング

この街は何が名物だ?泥棒、追いはぎ、貧富の差…いやもっとあるじゃないか、キーワードはsinkだ。「グラスゴーという架空の街」を舞台にビル・フォーサイスが「グレゴリー・ガール」(1980年・感想)の前年に同メンバーで作った長編映画デビュー作。コーンフ…

ふたつの部屋、ふたりの暮らし

私達が作中最初に目にする、愛し合うニナ(バルバラ・スコバ)とマドレーヌ(マルティーヌ・シュバリエ)の夜と朝は甘美だが、繰り返されるうちにその内実が見えてくる。帰宅してからのダンス、ディナーも一緒にできない誕生日(マドレーヌの家族が帰るのを…

TITANE チタン

モーターショーのショーガールの中に、車に性欲を抱き誘惑しているダンサーがいたら?特にああした場の女性は社会によって男性に性欲を抱かれることで満たされるよう教育されているものだろうから、まさかのそんな存在は分かって見れば世界を揺るがす。前作…

キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性

アメリカ文化の重要な一端を担う仕事、いや芸術を生み出したマリオン・ドハティの50年を中心に、キャスティング・ディレクターの何たるかと歴史を伝える2012年制作のドキュメンタリー。 ハリウッドではまだスターシステムがとられていた1950年代、テレビドラ…

ニトラム NITRAM

冒頭よりニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)の、「自分の家」以外の場所で認められたいという欲求が描かれる。「オーストラリアの若者」が集う海へ行ってみるがセーターに革靴、サーフィンをしたこともないのだからぬかるみに立ちつくすだけ。子…

オートクチュール

「盗んだのはもちろん、あなた」とエステル(ナタリー・バイ)に突きつけられたジャド(リナ・クードリ)は一瞬固まった後に「あなたは私の世界を壊した」と叫ぶ。これは全くかけ離れた二人の女が互いの世界を壊し合う話である。ジャドは自分で動ける母親に…

スペインの祭/太陽と影/微笑むブーデ夫人/魔王

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて観賞。 ▼『スペインの祭』(1919年ジェルメーヌ・デュラック監督)は元ダンサーの女を愛する男二人の決闘の間に当の女は他の男と踊り続けるという話で、役名「気が狂った老婆」が実に意地悪でよい…

ストレイ 犬が見た世界

「人間は不自然で偽善的だから、犬に学ぶべきだ」というディオゲネスの言葉で今どき始まるとは外連あふれる映画である。でも嫌な外連じゃなかった。どのみち犬が主役の映画などと言う時点で不自然なんだから。 トルコでは1906年に行われた野犬駆除に反対する…

ガンパウダー・ミルクシェイク

サム(カレン・ギラン)とエミリー(クロエ・コールマン)、「二人ともが運転席」の車が邪魔する奴らを蹴散らして夜の街へ滑り出す作中唯一の空撮にステレオラブのFrench Disko…このカットの力みなぎる感は忘れ難い。「昔から、男達が『会社』でもって商売し…

オリヴィア

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて観賞。1951年ジャクリーヌ・オードリー監督作品、20世紀初頭のパリ近郊の女子寄宿学校を舞台に英国少女の愛を描く。オープニングは先に見た「ガールフッド」のラストシーンで背後にぼんやり映って…

ガールフッド

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて観賞。2014年セリーヌ・シアマ監督作品、パリ郊外に暮らすアフリカ系の16歳の少女の前進を描く。「(成績が悪いのは)私のせいじゃありません」というマリエム(カリジャ・トゥーレ)の訴えに教師…

ジャンヌ・モローの思春期

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて観賞。1979年ジャンヌ・モロー監督作品、12歳の少女マリーが祖母の住む田舎で過ごす第二次世界大戦直前のひと夏を描く。幾度か挿入される遠景が大変効果的、かつ私にはとても「フランス映画」らし…

美しき青春

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて観賞。1936年マリー・エプシュタイン、ジャン・ブノワ=レヴィ監督作品、グルノーブル大学で医学を学ぶ女子学生エレーヌ(原題「Hélène」)の数年間を描く。序盤のパーティの構図が見事で、このあ…

アリス・ギイ作品集

「フランス映画を作った女性監督たち 放浪と抵抗の軌跡」にて、「物語映画のパイオニアながら長らく忘れ去られていた」アリス・ギイのフランス時代の膨大な作品の中から13本(製作年は1898年から1907年まで、上映時間は1分から12分まで)を観賞。どれも面白…