マリー・ミー


心は奈落に落ちながら体は舞台へせり上がってくるのに話は始まる。これはおかしいと気付いたキャット(ジェニファー・ロペス)は人の期待に応えておとぎ話をなぞるのはもうやめようと決意する。変わるならどこかへ飛ばなきゃ、でも着地点が欲しい、その先にいたのがチャーリー(オーウェン・ウィルソン)だった。マネージャーのコリン(ジョン・ブラッドリー)が言うには「群衆の中から相手を選ぶ、それこそ出会いじゃないか」、ここではまさにそうしているんだから面白い。加えて最後まで見ると、勇敢に飛ぶこと自体が大切なんだと言っていると分かる。例えその先が間違っていても。

キャットは結婚式なら「海辺で二人きりが良かった」のに、バスティアン(マルーマ)の希望に合わせたところ、そのことについてジミー・ファロン(演本人)におちょくられる。その後もくさされるのは自分ばかり。アカデミー賞授賞式でのクリス・ロックの件の後にこれを見ると、セレブをおちょくるのがコメディアンというものといってもやはり差別があるんじゃないかと思わせる。大スターながら賞には無縁だがバスティアンとの結婚ソングなら手が届くかも、そんな業界である。だから物語を自分で描こうと決めるのだ。

スターの恋愛映画に昔ならつきものの記者会見の場面が序盤に一度(そんなことをしなくても皆が勝手にあげてしまうから何でもすぐに知れ渡る)。このいわば初の共同作業において二人の息の合っていること、どちらもトーク能力を発揮できていることに驚かされる。チャーリーの娘ルー(クロエ・コールマン)は「パパはスマートで優しい」と言うが、実は二人は似ているところがあり、ルーの言うように互いにちゃんと話してみると一緒にいるのが楽しくなってくる。このロマコメの醍醐味がしっかり描かれてるのがいい。チャーリーが学校のスケジュールを主張して通し、互いの仕事に互いの存在が活きてくるのがいい。

音楽ものとしても大変楽しく、ロペスのステージは勿論マルーマの歌をちゃんと聞かせてくれるのが嬉しい。作中ではプエルトリコ出身の彼が歌でもMCでもキャットとの会話でもスペイン語を話すのが、英語の映画では何が第一言語の者同士でも英語で話す場合が多いから魅力的に映った。婚約者を奪った「アルビノ野郎」の前でわざとらしく使った際にチャーリーがキャットに「今彼は、君は美人だ、ぼくは馬鹿だったと言ったんだろう?」と耳打ちするのに、普段ならそんなセリフ嫌なものなのに、彼女と自分を守ろうとする彼の気持ちに不意に涙が出そうになった。