2022-01-01から1年間の記事一覧

マイ・ブロークン・マリコ

遺灰をあんなふうに撒き散らすはめになるこの物語を数多作られてきた男の遺灰映画と比べた時、これは女を物扱いする家父長制への反抗であるシスターフッドそのものの話だけれど、そう言いたくないというかそう言うのが悔しい。それが強く(作り手によっても…

ゲット・クレイジー/フリップト

特集上映「サム・フリークス Vol.20」にて音楽の楽しい二本立て。 ▼『ゲット・クレイジー』(1983年アメリカ、アラン・アーカッシュ監督)は、ロードショー公開中の『ロックンロール・ハイスクール』(1979年アメリカ、同監督)を見て臨めたのが幸運だった。…

休日の記録

結婚記念日に西武鉄道の「52席の至福」で電車に乗りながらのディナー。久しぶりの長瀞で岩畳を歩いてから秩父発の特別列車へ。太陽が照り付けても空気は秋の気持ちよい日。長瀞では阿左美冷蔵のかき氷、長瀞とガレのみそ豚ガレドッグ、秩父駅に戻って出発時…

ドライビング・バニー

子を愛しあれこれする母親の表象は多いが「『ダメ』な自分のせいで」子と上手くいかない母親のそれは少ないから、こういう作品があるのはよい。ただ男性が主人公のそうした映画の多くが物語の柱を複数据えているのに対し(スポーツとかね、女性が主人公のも…

秘密の森の、その向こう

映画は時計の針の音、すなわち時は否応なしに流れていくということを示しているのに始まる。ネリー(ジョセフィーヌ・サンス)の施設のおばあちゃん達への別れの挨拶は、以前からの習慣だったとしても今はより念入りにしているんじゃないかと後に考える。「…

オルガの翼

映画は2013年の陽の光の元のオルガ達に始まる。冒頭の、仲間と体操の練習中にふざけたり親友サーシャの演技についてコメントしたりコーチに励まされたり「キーウの大規模工事の裏で市長にお金が流れてると記事にしてるのに何も変わらない」と仕事に奔走し大…

LOVE LIFE

「違うの、守るっていうのは死なないってことじゃないの」とは愛の対象がそこに居るか否かは関係ないという意味だから、このセリフからこの映画が「LOVE LIFE」をどう解釈しているかが分かる。同時にオセロを「ゲーム」で済ませてしまうような明恵(神野三鈴…

ビースト

イドリス・エルバ演じる「娘とぎくしゃくしている、現在は一人身の男性医師」という主人公の設定は監督のバルタザール・コルマウクルが製作・脚本・監督を手掛け主演もした『殺意の誓約』(2016年アイスランド製作)とほぼ同じ。何かを映し出しやすいキャラ…

NOPE ノープ

遅刻常習の妹エム(キキ・パーマー)が皆の前で滔々と語る「映画初のスタントマンにして調教師にしてスターは私のひいひいひいおじいさん、黒人は映画の誕生時からそこにいた」という口上に惚れ惚れしていたら、その、映画の観客への説明というより世界へ認…

ゴー!☆ゴー!アメリカ 我ら放浪族/ウディ・ガスリー わが心のふるさと

特集上映「サム・フリークス Vol.19」にて観賞、自ら選んで放浪の旅に出る男を描いたアメリカ映画二本立て。終わってみれば見る順番も肝だった。 ▼「ゴー!☆ゴー!アメリカ 我ら放浪族」(1985年アメリカ、アルバート・ブルックス監督)は、カリフォルニアの…

Zola ゾラ

性的人身売買を扱いながら軽快に見せる映画というのがあって、90年代以降のそれらは「お話」でもって空気をコントロールしてきたように思うんだけど、この映画は空気を変える出来事の数々が当事者に伴走しているようなリアルさを持っており、独自の演出が盛…

スワンソング

ウド・キアー演じるパトリック・ピッツェンバーガーが高齢者施設を脱して息をする時、看板の文字にここはオハイオだったのかと思う。予告から遠くへ旅する話だと思い込んでいたら、彼は元々そこにいたのであった。すれ違う大人と子どもにハロー……続けてサン…

セイント・フランシス

まずは私の長年の思いに応えてくれる映画であった。生理や中絶は大ごとでもあるし大したことじゃなくもあると言ってくれていた。実際そうだから。それなのに私達はその都度どっちかに決めつけられたりどっちなのかはっきりしろと責められたりしてきたから(…

キングメーカー 大統領を作った男

「私は欲しい時だけもいで食べる柿ではありません」と言いながらも抑え切れず声が掛からないうちに事務所に戻って来たソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、主人キム・ウンボム(ソル・ギョング)の「組織の主体は人だから」との助言で皆の前で一席ぶつ。与党…

きっと地上には満天の星

映画には、人には事情があるのだという想像力を鍛えてくれる役割があると私は思っているんだけど、この映画、原案である「モグラびと」の記憶からして(あれは現在の状況でないとはいえ)舞台が早々に「地上」となるのに驚いていたら、その描写が鮮烈だった…

C.R.A.Z.Y.

矛盾に生きるということ、どうしようもない優しさ、そうそう『カフェ・ド・フロール』!(…のオカルト要素。そういえばあの彼もDJだった)という、私にとってのジャン=マルク・ヴァレの色々があった。願望の映像化といういわば禁じ手を何度も使うのには『雨…

1640日の家族

これは面白かった。子どものための里親制度についての話でありながら、メラニー・ティエリー演じる主人公アンナを追った一級品の映画になっている…なってしまっている。ラストシーンが彼女一人や大人だけなどじゃなく家族全員というのに感心したんだけども、…

アンデス、ふたりぼっち

アンデス高地に暮らす老夫婦を描いた2017年製作の劇映画。妻パクシ役、夫ウィルカ役いずれもの演技然とした演技が大変「自然」に思われる。邦題のように「ふたりぼっち」なんだから(それなのに映像があるんだから)演技であるのが「自然」なのだ(絶妙な動…

海に向かうローラ

EUフィルムデーズのオンライン配信にて観賞。2019年ベルギー・フランス、ローラン・ミケーリ監督作品。遺灰を撒きに行くロードムービーといえば知る限り主人公は男性であり、それは誰かが死んで改めてその大切さを実感したりもっと何かしてあげられたはずと…

魂のまなざし

ヘレン・シャルフベックの絵は国立西洋美術館で開催された「モダン・ウーマン フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」で見た。フィンランドでは早くから男女平等の美術教育が実践されてきたと会場で読んだから、この伝記映画で描かれている彼女の暮らしの…

スウィートハート/秘密のふたり

レインボー・リール東京にて時間の合った二作を観賞。 ▼「スウィートハート」(2021年イギリス、マーリー・モリソン監督)は17歳のAJ(母親がつけた名前はエイプリル/ネル・バーロウ)のファッキンホリデーもの。「ただの牛として見なさいよ」に始まる、冒…

恋愛の抜けたロマンス

映画は主人公ジャヨン(チャン・ジョンソ)の「夢精」に始まるが、その「夢のセックス」につき、避妊しないのか~などと思っていたら、後にそれは彼女が「初恋」で受けた心の傷と共にあるセックスだということが分かる(いやらしいと感じることと自分が傷つ…

モガディシュ

世界中どこにいても政治的立場を明確にすることが求められるコリアンの中でも最もそこから離れられないはずの人々が人命の下に一つになる。南のハン大使(キム・ユンソク)の「我々はコリアンだ」がそれを表していた。ちなみに中盤カン・テジン参事官(チョ…

ポーランドへ行った子どもたち

映画はポーランドのとある場所でとある歌を歌い踊る女性をもう一人の女性がiPhoneで撮影しているの(を誰かが撮影した映像)に始まる。これはまず二人の女性の旅の記録のドキュメンタリーであり、一人は被写体であり脱北者であり家族を失った者、一人は監督…

ベイビー・ブローカー

「雨が降ったら傘を持って迎えに来てよ/行ってきます」なんて、ホテルの一室がまるで家となる、地に足着いていない旅の間だけの「ブローカー家族」。シフトを組んで赤ちゃんにミルクを飲ませ、細々した仕事を分け合ってこなす様子は家父長制の真逆にある理…

三姉妹

(以下少々「ネタバレ」しています)冒頭よりテンポよく繰り出される三姉妹の日常を見ながらなぜか「なぜ、なぜ、なぜ」と思わせられる。彼女らが地を這うような日々を送っているのはなぜなのか。その根源が少しずつモノクロで、やがて鮮やかにカラーで蘇り…

PLAN 75

オープニングに描かれる三つ、実際に起きた障害者殺傷事件を思い出さずにはいられない蛮行(加害者の「その後」は異なるが)、75歳以上に死を選択する権利を保障するプラン75の成立を告げるラジオのニュースの声、ホテル清掃という肉体労働に就いている高齢…

スープとイデオロギー

同じ週末に公開された二本のドキュメンタリー「FLEE フリー」(感想)と本作には通じるところが幾つもあるが、まずはサバイバーが数十年後に映画作りを経てある境地に達するまでを記録している点が挙げられる。あちらではそれが映画の終わりに私達の眼前に意…

FLEE フリー

オープニング、逃げる人々のアニメーションに被る、故郷とは?との問いへのアミンの答えは「そこから逃げなくてもいいところ」。少年時代には「いつも家にいてくれると分かっていた」母親の膝に頭を埋め髪を撫でてもらうのが最高に幸せな時間だったと語る彼…

走れ、ウイェ!走れ!

EUフィルムデーズにて観賞、2020年スウェーデン、ヘンリク・シュッフェルト監督作品。歌手のウイェ・ブランデリウスが実際の家族と共演し、パーキンソン病と診断された自身を演じる自伝映画。上映前に流れたメッセージ映像の「諸々の事情で僕はそちらへ行け…