キングメーカー 大統領を作った男


「私は欲しい時だけもいで食べる柿ではありません」と言いながらも抑え切れず声が掛からないうちに事務所に戻って来たソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、主人キム・ウンボム(ソル・ギョング)の「組織の主体は人だから」との助言で皆の前で一席ぶつ。与党は堂々と資金を使って賄賂をばら撒き停電まで起こして不正をしているじゃないか。聞き慣れた内容のようで何故だか大変心に残った。巨悪ほど得てして在って当然、まるで社会の背景みたいに捉えられているものだ。その中で理想を抱いて生きていくにはどうすればよいのか。

良心を信じる男と差別によって父を殺されそんなもの信じない男が、世界を変えるために一緒に上りつめていく。先の演説で「一番嫌いな言葉は『負けてもよく戦った』」…などと言っているのを裏でにまりと聞いているウンボムは、後に「私を利用した」と責められ「分かってる」と答えるように、分かっているのだ。中盤、チャンデが自身の「影」としての存在をも賭けた策略でとある人物にとある名刺を受け取らせる際に挿入されるウンボムの後ろ姿が何ともセクシーなのは、彼が自身の信条に反する、あるいは我慢できるすれすれの悪に身を任せているからなのだ。

ウンボムとの仲が決裂して幾年、チャンデが夢想していた、すなわち一番欲しかった言葉も「分かってる」であった。但しそれはウンボムが自分のことではなく自身とチャンデのことについて言う、チャンデの存在そのものを肯定する言葉であり、真反対の二人の間に架けられる橋、伸ばされる手なのだった。

ドラマ「サバイバー 60日間の大統領」(これもある男と彼を大統領にしたい男の物語だったと言える)では自身が野党トップの役だったペ・ジョンオクが、本作では野党代表候補の妻に。舞台となる時代もあってか女性の登場人物は少ないが描写は上手く、彼女演じるウンボムの妻の場合は(キム・セビョク演じるチャンデの妻とは対照的に)家事を連想させる場面は皆無、夫より後ろに位置することはなく、夫の地位によらず自身の知性で立場を築いているというクールネス。与党には全く居ない女性職員の一人としてウンボムの事務所で次第に髪が短くなっていくスヨン(ソ・ウンス)も自然で見易かった。