走れ、ウイェ!走れ!


EUフィルムデーズにて観賞、2020年スウェーデン、ヘンリク・シュッフェルト監督作品。歌手のウイェ・ブランデリウスが実際の家族と共演し、パーキンソン病と診断された自身を演じる自伝映画。上映前に流れたメッセージ映像の「諸々の事情で僕はそちらへ行けないけれど、映画が代わりに旅をする」とはよくある言い回しだけど、なぜだかそれを聞きながら、その後映画を見ながら、そうしてると思った。

ウイェがメンバーであるバンドの演奏に被るオープニングタイトル、文字が出る度に映像がストップするのは、後で声を掛けてくるお客の「君は70年代のロックが好きだろう」に倣って言えばアルドリッチの「飛べ!フェニックス」の冒頭というところだけど(って今確認したら65年の映画だった)、ここでは静止の反復が、私には予想のつく不安、ストレスとなって襲い掛かってきた。

先日配信の始まった「オーディナリー・ラブ」(2019年イギリス・アイルランド、リサ・バロス・ディーサ、グレン・レイバーン監督)では乳癌を患った妻(レスリー・マンヴィル)が「変わりたくない」との意思を持ちそのために闘うのが珍しく面白いと思ったものだ。病の後には元に戻らない、変化するんだということを肯定的に描く作品が近年は主流だから。しかし、癌だって以前のままではいられないだろうけれど治療法が無いパーキンソン病の場合はその闘いを選択することもままならず、医師に「一生つきあっていく病気です」と言われたウイェの「いつも」の時間はそこで一旦止まってしまう。

誕生日パーティで新しいピアノを贈られるも病気のことを告げていない皆の前で震える手では弾けず、出て行ってしまうウイェ。それからの地獄巡りが、おそらく舞台の時の演出そのままなんだろうけど秀逸で、以前に「解放が大事なんだろ」と言いながらスタンダップで(この場面でやはり自身の夢遊病を題材にコメディアンのマイク・バービグリアが監督主演している「スリープウォーク・ウィズ・ミー」を思い出す)、ワークショップで、支援センターで、全くそうしてるふうには見えなかった理由が分かり胸がいっぱいになった。あれは他者を攻めることで自身へ向けられるかもしれない攻撃から身を守っていたんだと。私はお医者じゃないから判断は出来ないけれど、そうしているのかもしれない人がいるということに気付かせてくれる映画であった。