フリア IST


EUフィルムデーズのオンライン上映にて観賞、2017年、スペイン、エレナ・マルティン監督。

舞台は主人公フリアがエラスムス計画によって留学する先のベルリン。ベルリン芸術大学建築学科の教授いわく「ベルリンは『(過去でも未来でもない)現在の都市』だ」、理由を問われた学生が答えて「今の課題に対応するので精一杯だったから」、引き取って教授「それがダイナミズムの源泉だ」。この映画ではそれとフリアが重ねられている。夏が終わるまでのフリアの今、今、今。「あなたは誰で何をしてる?」に「バルセロナから来た」としか答えられない彼女の、それでも「今」は力強いんだという映画である。

映画はフリアが恋人ジョルディを乗せて車を運転しているのに始まる。彼女は自分の人生に彼が乗っていると捉えている、という感じを受ける。これは人間の困った部分…という言い方はずるいな、他人に対して余裕の持てない感じ、つまり甘えている感じを見せつけてくる映画である。私にも思い当たる節がある。たった一時間待たされたことへの不機嫌、来てねと言っておきながら行くよと言われると試験があったらどうするの、忙しくて付き合えないかも、なんて返答の数々。スカイプ中にトイレの蓋の上に置かれたディスプレイが虚空(こちら)に向かっている画が印象的だ。

フリアが留学先の皆と過ごす時間やその関係は余裕の無さや甘えの裏返しとも言える。それは決してダイナミズムと相反しない。特に女の場合、そのことが描かれた作品はあまりないから、この映画の価値がそこにあると思う。「ロンドンで美術を勉強して、合ってないと思って、今はベルリンで建築を勉強している」「帰りたくない?今はこのパーティのことだけ考えて」というイタリア人留学生のファニーという女子が初登場時からとても活き活きと描かれており、見ていて楽しかった。

渡独早々、フリアは営業マンいわく「ベルリンの風景と光と音」を体感できる部屋に引っ越す。建築の授業を受け学外の仲間と課題に取り組んでいても、自分の暮らしとそれとが結びついている感じは不思議としない。彼女は次第に友人とシェアしている部屋の家賃を滞納するようになるが、多くの映画と違ってこの映画では家賃の滞納は貧困でも冗談でもなく彼女が生活している実感を持っていないことの表れなのである。これもまた珍しい描写だと思った。