ウェスタン


EUフィルムデーズ2019にて観賞。2017年ドイツ、ブルガリアオーストリア/ヴァレスカ・グリーゼバッハ監督作品。

オープニング、緑のプラスチックバッグに仕事仲間の分の食べ物(と字幕にはあったがお弁当かお惣菜)をぶらさげて戻ってくるマインハルド(マインハルド・ノイマン)と、建物の入口にたむろする男達。次の場面では彼も彼らに次いでドイツからブルガリアの山間の村へ働きに出ている。工事現場のボスであるヴィンセント(ラインハルド・ヴェトレク)に「賢いやつだな」と言われ「稼ぎに来ただけだ」と答えるところでタイトル「Western」が出るが、この時には何のことだか分からない。

暑い最中に川での涼み中、向こう岸に現れた村の女にヴィンセントが嫌がらせをするのをそろそろ止めに入るべきかと立ち上がる、後に新入りの若者がやはり少女に嫌がらせするのには水をぶっかけるマインハルドだが、近くで出会った馬には「おれが行きたいのはあっちじゃなくこっちだ」と指示し「お前はおれに逆らえない」と鬣を掴んで(まさに)馬乗りになる。馬は「獣」だし女と違って父親もいないから。彼らとマインハルドとは別物(者と書くべきか?)ではなく同じ物のいわば端と端なのだと思う。彼がヴィンセントの目を付けている女に接する時、ボスのことが気に入らないからという気持ちが根にないようには見えない。

しかし大事なのはそれ、すなわち個人としてどこに居るかという話である、おそらく。そう考えた時、始めのうち見ながら疑問に思っていた、この映画には「お上」が存在しないが彼らは何の元で動いているのか、動かされているのか、ということはこの映画では意味がないのだと分かってくる。アドリアン(シュレイマン・アリロフ・レフィトフ)が「君は色んなところへ行ったんだろう、国じゃなく地球の話をしてくれ」と口にするとマインハルドが「地球はまるで動物のようだ、強いものが勝つ」と返すのもそれに繋がっているのだろう。簡易な言葉を選んで二人がやりとりする場面の数々には奇妙な広がりを感じた。