アリス・ギイ短編集

アメリカ映画史上の女性先駆者たち」特集にて観賞。レオン・ゴーモンが彼女の結婚に際し夫となるハーバート・ブラシェのアメリカ派遣を決めたことからフランスでのキャリアを捨て渡米するはめになったアリス・ギイが、数年後にニューヨークのゴーモンのスタジオを利用して設立したソラックス社で撮影した1912年制作の短編6本を上映。

『恐ろしい教訓』の主人公はギャンブルで大勝ち…となればその後の展開が嫌でも予想されるけど、「予想通り」ながら「予想のはるか上を行く展開」という二つの楽しさが味わえる。夫婦に始まって終わる物語なのがアリスらしい。
『刑事の犬』では続けて大がかりな仕掛け部屋が登場。アリスは既に特殊効果も駆使していたそうだけど、この二作では映像のマジックというより凄いものを映して見せてくれる。「のろのろ進む刃」という効率の悪い仕掛けは今なら「あり得ない」と言われてしまいそうだけど、この「あり得ない」という批判いやネガティブな気持ちを私達はいつから映画に対して持ち始めたのだろうかとふと考えた。ちなみに「刑事の犬」であって「刑事と犬」ではない、すなわち犬を世話しているのは彼の妻と娘であり、これは妻が犬を使って夫を助ける話なのであった。
『変装』は愛し合う若い男女が娘の方の父親を欺き結ばれるという王道もので、使われるトリックがマルクス兄弟で有名なあの鏡ネタ。同時期にマック・セネットがスタジオを設立しているので、このネタの最初はアリスか彼かというところなんだろうか?

アメリカ市民の作り方』は、自伝『私は銀幕のアリス』に記されている、涙の旅の末にニューヨークへ到着してすぐ目にした、警官が移民のカップルを呼び止め女性の手から荷物を取り上げ男性に持たせたという光景が元(に違いない)。映画では「イワンと哀れな妻」が上陸するや夫の方がこの「第一の教育」を受け、なお妻に暴力を振るう度にアメリカの男性達に暴力でもって「教育」され、6ヶ月の懲役を課された挙句ようやく「アメリカ市民」になり二人で幸せに暮らす。私には素朴な目線が生んだ一本に思われた。
『アームチェアの少女』とはどんな少女かと思えば女相続人。先の自伝に会社設立当初はメロドラマ全盛期で、客に受けるために「若くて美人」の女相続人が誘拐されるような話を撮っていたとの記述があったので、そうではない本作は、椅子に座る位しかすることのなかった少女が初めて権力を行使し望むものを手に入れる話と受け取った。