ザット・シンキング・フィーリング


この街は何が名物だ?泥棒、追いはぎ、貧富の差…いやもっとあるじゃないか、キーワードはsinkだ。「グラスゴーという架空の街」を舞台にビル・フォーサイスが「グレゴリー・ガール」(1980年・感想)の前年に同メンバーで作った長編映画デビュー作。コーンフレークへのこだわりが既に。

That Sinking Feelingとのタイトルが文字通り沈んでいくと、雨でびしょ濡れ、寒さに白い息を吐きながら、青年ロニーが自分とは真反対の身分の公園の像に語りかけている。頑張らなきゃと思うけど、義務教育を終えたのにどうして職がない?不景気に仲間も仕事がなく従って金がなく、ハンバーガーとコーヒーも買えず、ステレオなんて買う気もない。死のうかとも思うけど死にたくない。雨が止む日はくるだろうか。

モンティ・パイソンばりのギャグ満載で描かれる、窃盗メンバーを集め準備を進め実行に至る過程がとても楽しい。それにしても彼らの、誰とも目線が同じであることよ。子どもを仲間にし時にタバコをもらい時にへこませようと頑張り、犬や白鳥などの動物と場所を争う。彼らが「沈んでいる」からというより、見上げるのは公園の像だけ、後は皆同じなんだろう。そもそも帽子や制服の有無だけで、働いてる奴らも同じようなものなのだ。同級生とロニーのやりとりはさしずめ子ども同士の「警官と犯人ごっこ」。

先月見たロジャー・ミッシェルの「ゴヤの名画と優しい泥棒」のニューカッスルの描写が頭をかすめ、あれにもキッチン・シンク・リアリズムの匂いがあったなと思う(「グラスゴー」はもっとずっと寂寥としているけども)。そして「金がないから泥棒するんだ」「文無しの泥棒なんて」なんてやりとりにも結構な真理がある、金のない泥棒ばかり捕まっているからね。お金がないのに泥棒なんて世界をひっくり返すこと、できるんだろうかと見ていると、彼らはまさに斜め上へ軽々と飛んでいくのだった。