アイ・キャン・スピーク


アメリカ合衆国下院121号決議(日本軍従軍慰安婦謝罪要求決議)が採択された2007年の公聴会での証言を元に制作された2017年の作品が、日本でもようやくソフト化・配信で見られるようになったので観賞。「笑えて泣ける」見慣れたスタイルの韓国映画
話は9級公務員のミンジェ(イ・ジェフン)と陳情に日参する通称トッケビ(妖怪)ばあさんのオクプン(ナ・ムニ)の出会いに始まる。ミンジェが二人暮らしの弟ヨンジェ(ソン・ユビン)に言われる「おばあさんは家族もなしに一人で暮らしてきて寂しいんだ、あんなこと言っちゃいけない」に又そんな決めつけてと思っていたのが、それが正しかったのだと分かってくる。自身の店には関係ない悪辣な再開発と戦うのも市場の皆が「一緒に暮らす人だから」。一つにはこれはオクプンに家族が出来るという話である。

「忘れるのは負けだ」と思いつつ、母親にも疎んじられたオクプンは「死ぬまで隠れているつもりだった」が、助け合って生き延びた親友の意志を継いで公聴会で証言することにする。いわく「予感してたから英語の勉強を始めたのかも」。慰安婦被害者の登録申請を(「自尊心から」)していなかったため直前になって日本側から権利がないと却下されるなど、被害者であることの証明を求めてくるやり口の卑劣さに腸が煮えくり返る。
韓国においては、オクプンの身上と決意を知るや全員が迷いなく味方となり精一杯応援する。彼女が孤独に耐えてきたことにつき미안해, 미안해(ごめんね)、それに対して彼女の方も미안해, 미안해と返す。なぜ韓国人同士でこんなに謝り合わなきゃならないのか。アメリカ人もsorryと言うが日本人は謝らない。コメディふうながら名指しでの安倍批判と「でも支持率は上がってるんだって」「ふん!あいつらが謝罪するまで死なないよ」で映画が終わるのは、それが一番のテーマだからだろう。

TOEIC950点のミンジェがその目的を知らずオクプンに勧める勉強法は「書かないで、分からなくても声に出す」。勝負や歌を用い、店で「外国人」と英会話をするよう指示するなど迷惑なやり方もし(そこはこの手の韓国映画らしく全員で盛り上がるという展開だけども)、楽しくなった彼女は「顔を見て話せば通じる、先生がいてくれるから話せる」。両親を亡くし夢を諦めた生い立ちを思わず英語で語る彼に「声を聞けば何を話しているか分かる」。
これらの場面は公聴会でのオクプンの韓国語でのスピーチに繋がっていると言える。親友に代わっての当時の少女皆のための証言は多くの人に正しく伝わるよう幾度も練習した英語で行うが、とあることを切っ掛けに、その前に自身の言葉で堂々と、滔々と話す。実はこの映画で一番心動かされたのは彼女が私たちの言葉、韓国語で証言するこの姿だった。それは「家族」の支えによってなされるのだった。