ボストン・ストロング ダメな僕だから英雄になれた



ジェフ(ジェイク・ギレンホール)の母パティ(ミランダ・リチャードソン)のエリン(タチアナ・マスラニー )に対する「あんたは野球ってものが分かってない」との意味が掴めず引っ掛かっていたのが、映画の最後に分かる。「ソックスが優勝したのは全てジェフのおかげ」との文章が出る。ある種のアメリカ人にとって野球とは、選手だけじゃなく英雄が牽引するものなんだろうか。これは第一に、母と息子の間に不和が表出し、解消する話と取れる。


第二には、「いつも居てほしいところにおらず、時間には遅れてくる」男に女が別れを言い渡しながらもその都度よりを戻してきたカップルが、大きな問題を乗り越えまたくっついたという話にも取れる。「君はいい母親になる、僕みたいな大きな子どもの世話もうまいんだから」なんてメッセージに男女逆でもそう言えるものだろうかと考えつつ、ラストシーンのジェフは実に「歩き始めた子ども」のようで、これから自在に、でもってエリンと共に歩いていくようになるんだなと思わされた。


オープニングの一幕で、ジェフがどんな人間だか分かる。自身の欲望に忠実で他人のためにもよく動く男。職場でくるくると働き、野球のために走って帰り、未練のある女を追い掛け、母親のために高い棚の物を取ってやる。常に肉体を、「足」を駆使している。それが奪われてしまうのだから、どんな人間にも辛かろうが彼にとっては尚辛いだろうと推測させる。二度のフラッシュバックの「他の奴を救ってくれ」との叫びから分かるように、生きたいなんて全然思えないのに生きることを強要されたことが彼の苦しみである。ボイスメールの「僕は生きたい」をエリンは聞いたはずだが、始球式の中継を見る表情からはその気持ちが読み取れなかった。