スイートハート


イタリア映画祭にて観賞、2025年マルゲリータ・スパンピナート脚本監督作品。

「浜辺の貝はひとりぼっちだったけれど波と風の音に育てられた」というお話を大好きなベビーシッターにせがんでいた少年ニコ(マルコ・フィオーレ)は、彼女が結婚する夏、高齢の叔母ジェラ(アウローラ・クワットロッキ)の元に預けられる。シチリアに着くとエアコンがなく扇子を渡され自分で扇がなければならないのが面白い(老女達はどこでも犬にでも扇ぎまくっている)。まずは両親の存在の薄さがいい。お話の都合であってもそれを許さない感じがイタリア、いや日本の映画にもあるから。

食前にお祈りをする、パジャマを着て昼寝するといった「基本的なこと」をジェラから強制されるうち、カードを選ぶよう言われてもどれを選べばいいのか聞いていたニコが自分で物事を決めて実行するようになっていく。ぶつかり合う機会がなければ人は育たないとでも言っているようだ。それはジェラの「基本的なことができれば自信が持てる」との信念や、建物で唯一の女の子ヴィオレッタが、老女達にこんにちはと挨拶しボール遊びを中断する一方で開けないと約束した箱は開けたことを黙っておけばいいのだと考えるいわば実践的な態度に通じる。

上映後の監督の話によると、子どもが多かった時代に家族の面倒を見るため家に留まった女性の集団と交流するうち、その中に(通訳の方いわく)ホモセクシュアルな感情が流れていること、それが宗教的な制約のため封印されていることを感じたのだという。これは家から出て行くことも好きな相手と生きることも叶わなかったジェラの昔ながらの知性とニコの現代的な知性がぶつかって影響し合う話である。作中の「幽霊」は人に知られることのない、家に囚われた女性、あるいはクィアと重ねられており、ニコとヴィオレッタが重々しくも静かな部屋を探検する様子がすがすがしいのはそこに風が通るからなのだ。意表を突かれたエンディングの『美しき青きドナウ』は明るくやっていこうということだろうか。