ベル・エポックでもう一度


私の思うフランスが詰まっていたけれど、それでもこのギョーム・カネ(私としては本作の主人公は彼)は、ハッピー・マディソン製作じゃない映画に出ている時のアダム・サンドラー(の10年位前)に見えてしょうがなかった。
心の離れてしまった愛する人との出会いの時をもう一度、というのが薄気味悪く思われて中々入り込めなかったけれど(何もかも無くした末のヤケだとしてもね)、この映画には一応、過去への耽溺に対する批判的な視点がある。そもそも昨今の文化に否定的な初老の男ヴィクトル(ダニエル・オートゥイユ)が流行りのサービスでもって過去にタイムトラベルするというひねった作りだし。

ファニー・アルダン演じる彼の妻マリアンヌのセリフの数々がいい。(息子に対し)「母乳で育てたのが間違いだった、母親のお乳がセックスライフの始まりなんだから」。(就寝前にVRを楽しんでいるところへ夫が)「ゴーグルを外せよ」「それで何を見るの?パジャマを着た爺さん?」「おれは爺さんでお前は婆さんだ」「私は若く見える」(男の人って、自分の方が年嵩に見えるのを「釣り合ってる」と認識してるよね!)。夫の望む「1974年」で出会いを繰り返す時にはまずはっきりと言う、「私はこの時代は嫌い、レイプもあったし中絶は違法だった」。
フロイトを都合よく引いて話す精神科医の彼女が作中最後に口にする「人生は短い」というシンプルな一言、あそこにはまさに自身がこめられているようでぐっときた。

アントワーヌ(ギョーム・カネ)と十代からのくされ縁らしきマルゴ(ドリア・ティリエ)は絵に描かれることを作中二度拒否する。一度目は見目麗しい肖像画に「死んでるみたい」、二度目は妻じゃなく自分を描くようになったヴィクトルの筆に気付いて彼から離れる。こうしたマルゴやマリアンヌの態度により、男の映画ながら女もちゃんと生かされてはいた(部分否定で書いているのは、女をめそめそ泣かせて気持ち悪い映画だな、という感じはやはりあるから・笑)
しかし「脚本家」のアントワーヌが「女優」のマルゴに怒鳴り散らす&その後に誉め捲るという人格描写は変に思われた。あのマルゴが何だかんだ言って好き、と選ぶ相手に思えない。「何だかんだ」の範疇を超えている。

一番惹かれたのは、序盤の「役者はなぜアドリブが好きなんだ?」が見ているうちに妙味となる作り。作中の世界では設定上、役者がとてもカジュアルな仕事でもあり、それが面白さを生んでいた。