ホイットニー オールウェイズ・ラヴ・ユー



運命を分けたザイル」「消されたヘッドライン」「第九軍団のワシ」などどのような作品でも面白いケヴィン・マクドナルドが脚本も手掛けたドキュメンタリー。辛くなりそうで迷ったけれど、見てよかった。


再選したレーガンの「アメリカは絶好調だ」との言葉を中心とした80年代半ばの「アメリカ」の洪水から、幼少時のホイットニーが体験した1967年のニューアーク暴動に立ち返るオープニング。物心ついた時のアメリカ(=世界)の顔がレーガンだった私だけど、変なことを言うようだけど、当時から今に至るまでホイットニーの貌や声がはっきり認識できない。このドキュメンタリーを見てその理由が分かったような気がした。私が知らなかった、さして知る努力もしなかった世界に彼女が生きていたからなのだと。


色が白いから苛められた、中産階級を目指す両親が20ブロック先のエリアに引っ越したなどのエピソードにふとトレバー・ノアの著書を思い出していたら、後に映画「ボディガード」が南アで上映された際には白人男性と黒人女性のキスシーンに大喝采が起きた、アパルトヘイト撤廃後に初めて当地でコンサートを行ったのはホイットニーだとそのステージの様子や客席で抱き合うカップルの映像が流れた。ここで「人々」に向けて歌う彼女は「スター誕生」のラストシーンのジュディ・ガーランドのようだ。同時に母娘で「変わっちゃいけない」「変わらない」と言い合う姿はノーマンのようでもあり、同じ人間の中に幾つもの要素があるという当たり前のことを思った。


ケビン・コスナーは素晴らしい役者だし、このドキュメンタリーの中で私の耳が最もはっきり捉えたのはホイットニーでもボビーでもなく彼の声だったけれど、「ボディガード」での彼女の起用についてのコメントには何なんだよと思ってしまう。グラデーションで「私は私」(と他者が言うことがなぜ抑圧たるか)問題と繋がる。更には映画「ドリーム」の役どころにまで繋がってるように見えてきた。