クロッシング



原題が「Brooklyn's Finest」(ブルックリンの警官たち)だなんて知らなかった。邦題は「クロッシング」、宣伝文句に「三人の正義が交錯する」なんて言われたら、それぞれ事情を抱えた男たちのたどる運命が最後に一箇所でぶつかるのかな?なんて安易な想像をしてしまうけど、そういう話じゃない。情の押し付けや、「実はこうでした」なんて快感の安売りをしない、上品な映画だと思った。だからこそ、イーサン・ホークがエレベータの中で祈りを唱えるシーンにはぞくぞくさせられる。


冒頭、イーサン・ホークに向かって(と、その時は分からないが)ある男が一方的に喋りまくっている。物事に善悪の境界線はない、より善いか、より悪いかの、いずれかだ…その通り、三人の男たちは、その時その時の気持ち・状況に応じて行動する。
リチャード・ギアの、地味ながらも夢の中を生きているような感じの佇まいが素晴らしい。また、最後に映るイーサンとドン・チードルの横顔には、同じような処理(というのか、詳しくないので分からない)がなされており、宗教絵画のように見えた。


特筆すべきは警察の上司を演じるエレン・バーキン…といっても実は最後まで彼女と分からなかったんだけど。映画において男女が対峙するシーンには、どうしても「男」対「女」という作り手の意識が(あるかのように)見えてしまうけど、彼女とドン・チードルがやり合うシーンはただ「人間同士」のもので、見ていて心地良かった。ああいう「普通」のおばさんが出てくる映画って貴重だ。