100歳の少年と12通の手紙



「私なら、痛いときは思いっきりわめいちゃうわ」


一昨年の私のベストワン「地上5センチの恋心」(感想)のエリック=エマニュエル・シュミットの原作・脚本・監督による作品。余命わずかの少年オスカーと、ピザ屋のマダム・ローズ(ミシェル・ラロック)との12日間を描いた物語。



「地上5センチ〜」の第一の魅力は、安っぽいながらも…安っぽさこそが醸し出す、独特のロマンティックな雰囲気。主人公はヨーカドー的な店で化粧品を売り、ごてごて飾り立てた家に住んでいるけど、奇妙に心惹かれる。例えばジュネの映画を観た時のようにセンスの良さにほうっとなるんじゃなく、学園祭に迷い込んだような、うきうきした心持ち。今作はフランスの寂しい田舎が舞台だけど、オスカーいわく「僕の家」である病院の内部や、マダム・ローズのピザ・カー、彼女の母親(ミレーヌ・ドモンジョ!)が営むグッズ店などの、どことなく地に足着いてない感じが楽しい。
ローズの、その名の通りピンクのスーツにパンプスという格好は、前作で女っぽくも実用的なピンクやブルーの服を着こなしていたカトリーヌ・フロ(今まで観た映画の中で一番「(もうちょっと歳取ったら)してみたい格好」!)を少々「がさつ」にした風。頭髪の抜けたオスカーは、数ある帽子の中からピンクのものを選んで被り、水色のお姫様に恋をする。彼の想像する、ローズの「対戦シーン」の馬鹿馬鹿しさ。ミシェル・ルグランの音楽が流れるダンスシーンのチープさもたまらない。


「一日を10年のつもりで過ごし、思ったことを神様への手紙に書いたら?」…「時間のない」オスカーに対し、ローズは「待つ」ことはせず日々色々な指示を出す。オスカーはそれらを「体験」することにより、反抗心を覚え、好きな人と触れ合う心地よさを知り、「晩年」には「人生を味わうにはセンスが要る」ことに気付く。「若い時はばかでも楽しいけど、年を取ったら、頭を使わなきゃ」。好きな人と手を重ね、「僕たち」の音楽を聴く幸福。
一方、「病院」も「ボランティア」も「『愛してる』と言うこと」も避けてきたローズは、こちらもたったの十数日でそれらを受け入れるようになる。「17歳の肖像」の感想にも書いたように、広義の「教育」においては、教える側も影響を受け変化することが重要だけど、この作品では、そのことがわざとらしいほど強く示される。足りない部分を補い合える二人がめぐり合ったお話、とでもいうべきか。
「病気は事実なのよ、罰じゃない」「あなたの両親も、私も、いつかは死ぬのよ」。こんなにも「正しい」ことを言うローズが「神」に重きを置いているのがぴんとこないけど、それこそ私には分からない感覚なんだろう。


オスカーが死ぬのを「超自然」的に知るのは彼の母親であり、ローズではない。オスカーは「人生」を経験し、ローズは「私の人生はこれからも愛で満たされる」という確信を得る。二人は与え合ったが、「他人」のままでもあった。そこが素晴らしいと思った。