選挙2



まずは先週、前作「選挙」の上映と想田監督&山さんのトークが行われたイベント「ふしぎな国ニッポンのふしぎな選挙」に参加した際のことを少々。写真は会場である日比谷図書文化館には当日になって置かれたチラシ(笑・帰り際に見たらもう撤去されていた)
上映後に監督が登場、今回の「上映中止騒動」について語る。日本国憲法の「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力でもってこれを保持しなければならない」のくだりは、制定者が今日のような事態を想定していたんだろう、その気持ちに触れた気がすると。法律のこんな見方があるとは気付かなかった、時空を超えて私達の力になってくれるものだなんて。
山さんが加わってのトークは一転、爆笑に次ぐ爆笑。二人の馴れ初め?や山さんの「選挙」に対する考えやその変化、それによって起こした行動の数々。「選挙」を観ると、可笑しいのと同時に、この国に生きてることが寂しい、心細い気持ちになるんだけど、こういう人達がいるなら大丈夫、私も元気にいこう、と思えた。



「選挙2」は公開三日目の夜に観賞、上映の後に想田監督と山さんによる質疑応答あり。


まさかのカメラ酔い!でもそれが本作の肝。おじさん達に囲まれてやいやい言われていた前作と違い、完全無所属、「印刷物のみ」の選挙運動は(家族と一緒の時を除き)常に「一人」だから、カメラはげっぷが出るほど山さんだけと一緒。それが「独立系」ってことなのだ。
上映後、山さんの「お金を遣ったら負け」との言葉に監督いわく「映画も同じ、誰かにお金を出してもらったら、言うことを聞かなくてはならなくなってしまう」。やはり「独立系」でなければやれないことがあるのだ。


オープニングはエレベーターの中。山さんの「懐かしの宮前区ドライブに行きましょうか」との言葉に、監督の「うん」という返事が聞こえる。小さな音声だけど、あれ?と思う。この場面の後、あるいは次第に、監督の声は「出演者」同様の大きさとなる。
ポスター掲示場を回ってチェック。「印刷物のみ」でアピールするべく、彼のポスターには細かい文字で多くが書かれている。対して「神奈川がある」というような、意味の分からない(分からなさすぎる!)「キャッチコピー」で当選するなんて、確かに変だ(笑)
前作撮影時に住んでいたマンションの大家さんを訪れてのやりとり、都内に向かう車内でのボランティア?の人とのやりとりが長く映し出され、まずは山さんや彼らの政治感、選挙感がよく分かる。告知の紙切れ一枚をネタに移動距離何十キロ分も喋れるというのが、自分に置き換えて想像しても、そりゃそうだよなと思う(笑)
他にも「登場人物」が居るとはいえ、前半は助手席など至近距離から山さんを捉えた映像が多いので、上記のようにカメラにあたってしまった。想田監督の作品であまりお目にかからない空を見上げたカットが何度も挿入されているのは、観客への「息抜き」サービスかな(笑)


山さんが「何もしない」こともあり?カメラは後半、他の候補者達の選挙運動、と言っても前作で山さんがしていたような、祭りで神輿をかついだり運動会でラジオ体操をしたりといったものではなく(笑)誰もが目にする、街頭での挨拶を追う。映っている全ての候補者が、前作の影響を受けているんだから面白い。
おだ氏(互いに「一緒に仕事をしたい」と言っている)が「名前の連呼」について自ら意見しに来る、「党のチラシ」しか配れない旨を話す、次いで竹田氏(トップ当選)が確かに「党のチラシ」を配っている、朝の4時から行っているので疲れたと話す、そして自民党議員の眠たそうな、不機嫌そうな顔。この後、撮影を拒否する彼と監督のやりとりが続く。「『取材』の権利は公職選挙法で保証されている」と主張する監督に対し陣営側は「事前に言うべき」「大人の態度を取ってください」などと引かないが、結局カメラは彼らを撮るし映画は彼らを映し出す。。
上映後に監督いわく「いつもは了承を得ているが、今回は拒否した相手も撮っている、そういうことも必要だと思った、初めてのこと」「(表現の自由について)改憲されてもいないのに、改憲されたようになってしまうから」。


投票4日前になり、山さんは街頭演説を行うことに(質疑応答にて本人いわく「何もしなかったから撮るものがなくて悪いなと思って、監督へのサービス(笑)」)。「私に投票しなくてもいいから、選挙に行ってください」という、静かながら心のこもった語りは、映画の「クライマックス」としてもとてもいいと思った。
ラストシーンは前作のファーストシーンと対のようになっている。カメラが駅前で喋る山さんのアップから、駅の構内に身を引いていく。しかし山さん自身の言動は前作とはまるで違うし、そもそも前回は「演説」をしていなかった。「311以降(自分は)変わった」との言葉に、変わっていない世の中の方が変に思われた。


前作を思い出して面白く観た場面が多々。自動改札、麺を食べるさゆりさん、カーネルサンダース人形、焼鳥屋に古本屋。
一番印象的だったのは、選挙運動中に車で一人、休憩する山さんの姿。前回は暗闇の中、束の間の仮眠の後にお金絡みの電話が掛かってきて平謝りするというものだったけど、今回は陽の差す車内で缶コーヒーを飲んでいる。しかし決して「気楽」なわけではなく、「独立系」ならではの苦労、ストレスがあり「気だるい」と言う。


私は「用事のあるドライブ(って日本語として変だな)」、すなわち車で出掛けて用を足し、また車に乗って帰ってくる、というのが寂しくて苦手で、前作では、車に乗り込むやいなやウグイス嬢が「仕事」をし始める、まさに「一分一秒も『ムダ』にしない」場面に恐ろしくなった。でも山さんのドライブは見ていて寂しい気持ちにならない。そういうのって私にとっては大事なこと。


それにしても、3歳の息子が「シール!」と喜ぶと「証紙?」と返す山さんと、公園で遊ぶ子ども達に「なんで撮ってるの?」と訊ねられ「ドキュメンタリー」と返す想田監督は、ちょこっと似てるなと思った(笑)