やぶれかぶれ一発勝負!!/マーシャン・チャイルド


特集上映「サム・フリークス Vol.29」にて愛するジョン・キューザック二本立てを観賞。

▼『やぶれかぶれ一発勝負!!』(1985年アメリカ、サヴェージ・スティーヴ・ホランド脚本監督)のような映画を見ると私としてはZAZはやはり別格だと思ってしまうわけだけど(私がパロディかつ泥臭い方が好きだからというのもあるけど)ここまでのギャグのつるべうちは見もの。皆が宿題を出すところと日系二人組の「一人はスポーツ中継で英語を覚えた」といういわばネタばらしが特にお気に入り。

サヴェージ・スティーヴ・ホランドジョン・キューザックを主演に本作と翌年の『ワン・クレイジー・サマー』というほぼ同じ映画を撮っている。アニメ作家である監督の手による(ジョンキューが描いているシーンがあるのが楽しい)コマ撮り含むアニメーション、前者はエリザベス・デイリー、後者はデミ・ムーア演による女子のステージ、クライマックスは人気者の男子とスポーツで対戦。しかしたまたまなのかこちらの方がぐっとくるのは、後半やっと紡がれ始めるフランスから来たモニーク(ダイアン・フランクリン)とのお話でジョンキューが輝いているから。

「異性の恋人がいないのは辛い」という大前提は私が映画を見始めた80年代のアメリカ映画に最も強いように思う。弟にも、日系二人組にまでも「女」がいるのにというのでジョンキュー演じるレーンは辛い。そんな中、向かいの家の母親は「共通言語は愛」と言うけれど、まず共通言語として笑いがあり、嫌なやつへの仕返しがあり、スポーツがあって愛が生まれる、この順序が肝。車の下からキャップを被って出てくる女子の魅力、それを受けて輝くジョンキューの魅力。バーガー屋でのディナーでサックス取り出すのは屈指の名場面(それだって順序あってのことなのだ、「口説く」だめじゃなく好きな子のためだっていう)。


▼『マーシャン・チャイルド』(2007年アメリカ、メノ・メイエス監督)は前説で岡さんが言っていたように確かにジョン・キューザック版『インスタント・ファミリー』(2018年アメリカ、ショーン・アンダース監督)。ELOのMr. Blue Skyがこんなに合う映画があったんだと驚いた。映画の終わりの「子どもは地球にやってきたばかりのエイリアンのようなもの、世の中に馴染むのに努力している」から逆算すると子どもを育てたことのない私にも少し紐解ける。

デニス(ボビー・コールマン)が自分を火星人だと信じていることについてハリー(アマンダ・ピート)が言う「私も『サウンド・オブ・ミュージック』が好きで、ジュリー・アンドリュースが迎えに来ると思ってた」(ジョンキュー演じるデヴィッドが返す「違う国なのに?」)。彼女の生い立ちは語られないが、親に「捨てられた」デニスなら何をどう信じるのもあり得るとここで思う。だからこの物語においてはそれを信じずともよくなることが目指されるのだ。

閉める?開けておく?それともその中間?と子ども部屋のドアについてあれこれ聞いてから別室に下がるデヴィッドの姿に、誰かの保護者になるとは、一緒にいなくても一緒に居る、いつも心にその存在があるってことなんだと思う。転校初日の all day? all day. に表れている。デニスは老いた飼い犬の死も体験し、そのうち逃げ込むようにもなる…そこであの部屋がひとまずは彼の居場所になったと思う。居場所じゃないところには駆け込めないから。

映画は自分の子どもの頃をはみだしものだったと回想するデヴィッドの語りに始まる。姉のジョーン・キューザック演じる姉の家で犬にまたがる甥達に声を掛ける彼女を見る顔の柔和なこと、おそらく姉の方ははみだしものではなかったが「酷かった」という親の元で一緒に育ったようだ。SF作家である彼が契約通りの続編ではなく今の自分に起こっていることしか書けなかったというのも面白く、リチャード・シフ演じる専門家による「あなたは多くの里親が経験するのと同じ、子どもと友達になっている」道を通ってすごい旅をしたんだと考えた。