ドイツ映画祭にて観賞。2021年ドイツ、サブリナ・サラビ監督、アリナ・ヘルビングの同名小説(原題Niemand ist bei den Kälbern、直訳は「誰も子牛のそばにいない」)を元にメクレンブルク地方で恋人の実家の酪農家に居候する若い女性クリスティン(サスキア・ローゼンダール)の日々を描く。
アヴァンタイトルの間にクリスティンは恋人ヤン(リック・オーコン)が苛立つも動かなくなった農機を始め男の運転する車三台を乗り継ぐ。どこへ向かうのかと思いきや最初に帰るはずだった、毎日帰らざるを得ない、しかし彼女の「帰りたい」とはおそらくそこではないのであろうヤンの実家である。自分の車だってあるが出ては行けない。その代わりのように激しく脱ぎ着を繰り返し、酒を飲む。
クリスティンの同級生であり親友のカロが留守電のメッセージに「ブリトニーだよ」などと英語で入れているのが始めぴんとこなかったのが、次第に見えてくる、これはドイツの地方のとある世代の話なんだと。ブリトニーは子ども時代の希望に満ちた空気の象徴なのかもと。クリスティンだけでなく彼女と同じように父親に悩まされたあげく刑務所に入ることになったディーター、クリスティンとカロそれぞれの今の、あるいは元の恋人、皆が鬱屈を抱えている。彼女が窓から彼らを見下ろす時、恐ろしくも奇妙な安堵感を覚えた。
ヤンは一緒のベッドに寝ていればいつでもセックス可能と考えている男だが、ハンブルグからやって来たクラウス(ゴーデハルト・ギーゼ)は避妊もせず癖のあるセックスをするがクリスティンの好みであった。冒頭彼の車に乗った際、降りようとすると不調でドアが開かず閉じ込められた形になるワンシーンの演出が見事。夢を聞かれたのも初めてだろう。「都会で自分の家に住む」、恵まれていたから叶えられた私の夢もこれだった、切実さがよくよく分かる。