煙草を片手に「煙草は吸いません」と入力するロイ(イアン・マッケラン)、酒のグラスを脇に「お酒は飲みません」と入力するベティ(ヘレン・ミレン)という、「ナイブズ・アウト」の尋問場面と同じく映像ならではのやり方で嘘を見せるオープニング、タイトルがまずLiarと出てThe Goodと付け足される、どうgoodなのかと思う、場面変わってロイを待つベティがお酒を注文しているのは何かを仄めかしているように見える、魅力的な冒頭である。
(以下「ネタバレ」あり)
序盤の、孫息子スティーヴン(ラッセル・トーヴィー)へのベティの「それは嫉妬じゃない?」からしばらくしてふと、確かにここには「ベティを挟んだ男二人」という構図がある、彼は歴史の教師だった彼女の教え子で、二人はナチハンターなのではないかと推測した。半分程は当たっていたわけだけど、話が進むにつれ、どうも語り口が散漫なように感じられ、それゆえ扱われている事柄への態度が不誠実にも思われてきた。先に引いた「ナイブズ・アウト」が映画には映画のための本と思わせたのに対し、原作のあるこちらは小説ならば染みる形の語り口のように思われた。
お金の話は大切なのに失礼だとして皆しない…にベティが付け足す「セックスも」「トイレもね」。この二つが後に強く響いてくる。トイレの掃除を「できない理由」があろうと、お礼もしない、言及もしないということは「自分のしたことに気付いていない」んだろう、そういう話である。「なぜ今更、何年も経って?」の後に「私はあなたをもう許してる」と聞いての間抜け面、マッケランの表情が分かり易くうまい。「キャッツ」での出番「前」同様、彼のあそこの演技だけで数百円分の価値がある。