ボブという名の猫



新宿ピカデリーにて、小さいスクリーンながら平日にほぼ満席でびっくりした。最後には拍手したくなってしまった。ボブの出てこない、とはいえボブに導かれた、「Live」と入れ墨された手首と手首を合わせる「キス」の場面がよかった。


オープニングは「Punch and Judy」のあるコヴェント・ガーデンの朝。多くの人が通りすがる場所で「美しい月曜の朝、美しい僕を見て」とがなるように歌う彼、ジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)はそれでも人が好きなのだと一瞬思ってしまい馬鹿さを恥じた。お金のためなのだ。
半分食べ残したのをもらったサンドイッチを大切にしまいこみ、成果の無かったゴミ箱漁りの後にとうとう口にするが、雨の中、一番いいところを落としてしまう。そんな生活、いや後に彼は「久しぶりに生活をやっている」と言うが、これは生活じゃない。


まずはチャンスの話である。ジェームズの更生を担当するヴァル(ジョアンヌ・フロガット)は彼を福祉住宅に住まわせようと、他に大勢候補者がいると断られても「最後のチャンスだと思うから」と粘る。なぜそんなことを言うのか奇妙でもあるし、彼女の慧眼さを示しているとも考えられるし、そういうものこそが「チャンス」だとも言える。
入居の場面で、そういえば「わたしは、ダニエル・ブレイク」のケイティはロンドンから引っ越してきたものだけど、始めに居たのはどんな部屋だったろうと思い出した。福祉住宅に感激するジェームズが入浴中に物音を耳にし、脱いだ靴を手におどおど確認しに出る姿に、本当に住まいを持つのが久々なんだなと思う。


ジェームズとボブとの出会いの場面から、猫の目線が挿入されるのにびっくりした(笑)ボブのまずはのお目当てのシリアルの袋の中に始まり(お腹が空いていたのだ、ジェームズと同じじゃないか)、濡れた大きな生き物を見上げる。その後も事あるごとに挿入されるが、擬人化というんじゃなく、二人が似た者同士でもあることの表れに思われた。
ボブが姿を消した数日間の描写には、ボブが居なきゃこんなになるなんて新たな依存じゃないのかと心配してしまった。しかし、実は自分同様「生活」をしていなかったベティ(ルタ・ゲドミンタス)が隣から居なくなるのを「Hello, realty」なんて送る姿に大丈夫だと思わせられた。


ジェームズがボブを肩に乗せて街へ出ると途端に人気者になる。人間って猫が好きなんだなあと思うが、診療所での「ロンドンの野良猫の数を知ってる?」とのセリフや、住宅の「子猫を捨てないで」の注意書きに、責任を取るのは全く別問題なんだと思う。動物と共に世に生きることを考える映画でもあった。募金とか、しようと思う。