ファーナス 訣別の朝



愛するクリスチャン・ベールの新作を公開初週に見なかったのは久々。予告編に遭遇しなかったためどんな映画だか知らず、キャストの名前だけ確認して、あまりの豪華さに逆に腰が重くなってしまっていた。


最初の場面はドライブインシアター。掛かっている映画を知らず(imdbによると北村龍平監督の「ミッドナイト ミート トレイン」だそう)、エスカレーターと男が映っているので「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」でウィレム・デフォーが持ってくる映画を思い出してしまい、後のデフォーの登場シーンが可笑しかった。
車から上半身を出して吐く男、次いで車内が映ると、その映像が独特なので驚いた。女の顔がすごい。この場面でこの女がパンを千切るちまちまさや、後の場面でクリスチャンにくすぐられてゾーイ・サルダナがあげる笑い声の甲高さは、わずかな間で刻印を残す。


サム・シェパードがクリスチャンを誘いに来て車を停める、家の前の道の映像がとても美しい。どれも似たような家並み、奥の一軒から出てくる近所の人、何も無いが陽はあふれている。その後、二人が車で狩りに出掛ける山道の空撮において、角度が変わると、草むらだか何だかに溜まっている水が「現れ」て輝き出すのも面白かった。
クリスチャンが、父親から受け継いだ家を少しずつ修理する描写がいい。弟役のケイシー・アフレックが帰宅するとポーチでくつろいでいるが、アメリカ映画でよく見るいかにも快適そうな環境じゃなく、テーブルも無く、椅子を二つ置いて一方に足を、窓の桟に瓶やらみかんやらを乗せている。この後の、みかんを食べる横顔のアップは嬉しい(笑)


面白い話だけどぐっとこなかった理由の大半はキャストの面々、特にウディ・ハレルソンによる。ハレルソンが演じるのは冒頭の一幕で女も男も半殺しにしていた男、「ファーナス(溶鉱炉)」のある町から「車で5時間」の山奥で、おそらくヒルビリーを仕切っている。ハレルソンがついにそのまんまの役を!と思いきや、全然コクが無いというか、映画そのものに合っていない感じでがっかりした。演技のせいなのか何のせいなのか分からず。